実は深い翻訳業界[53]~「この翻訳、本当に効果ある?」投資対効果を最大化する翻訳プロジェクト管理の秘訣
- SIJIHIVE Team
- 2025年12月31日
- 読了時間: 7分

「翻訳にしっかりコストをかけたはずなのに、思ったような成果が見えない」 そんな声が上がり、次の予算取りでは翻訳が真っ先に削られてしまう。私たちは、こうした声をこれまで数え切れないほど耳にしてきました。
しかし実際には、その原因が「翻訳の質そのもの」にあるケースは多くありません。問題はもっと手前、翻訳が始まる前のプロジェクト設計に潜んでいることがほとんどです。
「そもそも、この翻訳は何のためのものなのか」
「誰に、どんなメッセージを届け、どんな行動を起こしてほしいのか」
こうした前提が曖昧なまま進んでしまうと、翻訳は成果を測ることができず、結果として「よかったのか、悪かったのか、評価のしようがないコスト」になってしまいます。
本記事では、翻訳業界の現場で実際によく起きているこうした課題を整理しながら、翻訳の投資対効果(ROI)を最大化するための、翻訳プロジェクト管理の考え方を解説します。
「翻訳の効果」が見えづらい理由

翻訳は成果物だが、成果ではない
翻訳プロジェクトにおいて、最も根深い誤解の一つが「翻訳が納品された時点で仕事は完了している」という考え方です。確かに、翻訳は目に見える成果物として納品されます。しかし、それはあくまで途中経過にすぎません。
現場を見渡すと、翻訳された資料やウェブページが十分に活用されていなかったり、更新されないまま放置されていたり、そもそも効果が測定されていなかったりするケースが少なくありません。この状態では、「翻訳によって何が良くなったのか」を誰も説明できないのも無理はないでしょう。
翻訳はアウトプットであり、ROI が問われるのはアウトカムです。つまり、「翻訳した結果として何が変わったのか」に目を向けなければ、翻訳の効果はいつまで経っても見えるようにはなりません。
翻訳業界でよくある「目的のない依頼」
翻訳の効果が曖昧になりがちな理由は、翻訳作業そのものよりも、実は依頼の段階に潜んでいます。
「とりあえず全部翻訳してください」
「前回と同じ感じでお願いします」
こうした依頼は、翻訳業界では決して珍しいものではありません。
依頼側としては、時間がない、体制が整っていない、細かな設計まで手が回らないといった事情があります。一方で翻訳会社側も、限られた情報の中で最善を尽くすしかありません。その結果、目的やゴールが十分に共有されないままプロジェクトが進み、「悪くはないが、どこか期待とズレた翻訳」が生まれてしまいます。
このズレは、誰か一方の責任というよりも、時間・体制・責任範囲が曖昧なまま進行してしまう構造そのものから生じているのです。
ROI を左右するのは「翻訳前」のプロジェクト設計

目的とゴールを言語化できていますか?
翻訳の ROI は、翻訳作業が始まってから決まるものではありません。むしろその大半は、翻訳に着手する前の設計段階で決まってしまいます。
重要なのは、翻訳の対象となる相手が誰なのか、どんな文脈で読まれるのか、そして翻訳後にどんな行動を取ってほしいのか。これらを事前に言語化できているかどうかです。同じ文章であっても、ターゲットが変われば、適切な表現や強調すべきポイントは大きく異なります。
「誰に」「何をしてほしいか」まで落とし込めていない翻訳は、あとから評価しようとしてもそもそも判断基準が存在しません。ゴールが曖昧な翻訳ほど、最終的に「良かったのかどうか分からない」という結論に行き着いてしまうのです。
翻訳品質は「人」だけでなく「設計」で決まる

よくある品質ブレの原因
翻訳品質にばらつきが出たとき、「翻訳者のスキル不足」が原因だと考えられることは少なくありません。しかし、現場を丁寧に見ていくと、翻訳者そのものが問題ではないケースがほとんどです。
たとえば、用語集が用意されていなかったり、文体やトーンの指示がなかったり、そもそもどんな読者を想定しているのかが共有されていなかったり。こうした状態では、翻訳者は判断の拠り所を持てず、その結果として、品質にブレが生じてしまいます。
これは翻訳業界では決して珍しい話ではなく、特別な失敗例というわけでもありません。だからこそ、品質の問題を「人」の問題として片付けてしまうと、同じことが何度も繰り返されてしまうのです。
ROI を高めるための3つの管理ポイント
ROI を高めている翻訳プロジェクトに共通しているのは、すべてを完璧に決めようとしない一方で、ブレてはいけない部分だけはきちんと設計している点です。そのポイントは次の3つに集約されます。
・用語や表現のルールなど、最低限の共通認識がある
・レビューについて、誰が・どの観点で確認するのかが整理されている
・「正しさ」よりも、「実際に使われるかどうか」を基準に判断している
完璧に正しい翻訳が、必ずしも成果を生むとは限りません。「完璧な翻訳」=「成果が出る翻訳」ではない。この視点を持つことこそが、ROI を高める上で欠かせないポイントです。
翻訳プロジェクトに“フィードバックループ”はあるか?

一度きりの翻訳で終わらせない
多くの翻訳プロジェクトでは、納品物が納品された時点で、すべてが完了してしまいます。翻訳会社に対して、その後どのように使われたのか、どんな反応があったのかといった情報が返ってくることは、ほとんどありません。
しかし、フィードバックがなければ改善は起きません。たとえ小さな気づきであっても、実際の使用感が共有されることで、次の翻訳は確実に良くなっていきます。翻訳を一度きりの作業で終わらせず、改善を前提としたプロジェクトとして捉えることが、長期的な ROI 向上につながります。
翻訳会社を「外注」ではなく「パートナー」にする
翻訳の ROI を高めている企業は、翻訳会社を単なる外注先として扱っているわけではありません。指示を出す側と受ける側という関係を超え、背景情報や目的を共有しながら、一緒に成果を考える関係性を築いています。
情報共有の量と質は、そのまま翻訳の品質や ROI に直結します。だからこそ、翻訳を単独の工程として切り出すのではなく、プロジェクト全体の流れの中で捉える視点が欠かせません。SIJIHIVE では、翻訳を単なる製作工程の一部としてではなく、クライアント社内の延長線上にある「社外のパートナーチーム」として機能することを重視しています。
翻訳の成果をどう「見える化」するか?

翻訳で設定できる KPI の例
翻訳の成果は、どうしても感覚的に語られがちです。しかし実際には、数値で捉えることができるケースも少なくありません。特にウェブサイトやマーケティング用途の翻訳では、アクセス数やコンバージョン率、滞在時間といった指標を通じて、翻訳がどのような役割を果たしているのかを把握することが可能です。
SIJIHIVE では、ウェブサイトの開発から翻訳、コンテンツ制作、さらに毎月のレポーティングまでを一貫して支援しています。翻訳を単体で切り出すのではなく、成果測定まで含めて設計することで、翻訳の ROI をより明確に示すことが可能です。
また、営業資料や事業資料の場合でも、翻訳された資料がどの程度活用され、商談や問い合わせにつながっているのかを追うことで、翻訳の価値は十分に可視化できます。
成果報告が次の投資判断をつくる
翻訳の効果を説明できない状態が続くと、次回の予算では、どうしても削減対象になりがちです。一方で、翻訳によって「何が変わり」「どんな成果が生まれたのか」を社内で説明できる状態を作れれば、翻訳は継続的に投資すべき施策として認識されるようになります。成果を見える形で残すことは、翻訳の価値を伝えるだけでなく、翻訳そのものを守ることにも繋がるのです。
まとめ

翻訳は単なるコストではなく、意思決定や成果を生み出すための投資です。翻訳前からターゲットや活用方法を丁寧に設計し、翻訳会社に求める役割を「作業」から「共創」へと変えていく。その一つひとつの積み重ねが、翻訳の ROI を確実に高めていきます。
「翻訳するかどうか」を悩むのではなく、「どう使い、どう成果につなげるか」を考えること。この視点を共有できる翻訳パートナーこそが、これからの時代に求められている存在です。
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。