伝わる中国語③~言葉の順番ひとつで変わる世界:中国語に見る感情表現
- SIJIHIVE Team

- 5 日前
- 読了時間: 8分

中国語を学んだり、翻訳に触れたりしていると、「意味は同じはずなのに、なんだか印象が違う」と感じることはありませんか?語彙も文法も間違っていないのに、冷たく響いたり、逆に強く聞こえたりする。そうした違和感の正体のひとつが「語順」です。
中国語では、言葉をどの順番で並べるかによって、聞き手が受け取る感情やニュアンスが大きく変わります。強調したい気持ち、伝えたい温度感、相手との距離感。それらが語順に自然に表れるのです。翻訳実務においても、語順は単なる「正しい並び」ではありません。原文が持つ感情の方向や、話し手がどこに視線を置いているのかを読み取る大切な手がかりになります。
中国語における「語順」の基本:語順=情報の並べ方

なぜ中国語は語順が重要なのか
中国語は、日本語のように助詞で役割を明示したり、英語のように時制や形の変化で関係を表したりする部分が比較的少ない言語です。その分、語順が「意味」だけでなく、「情報をどう見せるか」まで担っています。
ここで鍵になるのが、次の3つの観点です。
情報構造(トピック/フォーカス)何を話題として置き、「言いたい核」として何を伝えるのか
評価のスコープ(感情・評価がどこにかかるか)不満・感謝・驚きといった感情が、相手の行動全体に向くのか、それとも一部分に向くのか
距離感(対人配慮の置き方)相手を先に立てるのか、事実を先に提示してから感情を添えるのか
「語順=文法」ではなく、「語順=印象設計」と捉えると、理解しやすくなります。
日本語との違い:日本語は「文末」、中国語は「文頭〜中盤」で印象が決まる
日本語は語尾(です/ます、〜かな、〜かもしれないなど)や助詞によって、文末で印象を調整しやすい言語です。最後まで聞いて初めて、「話し手がどういう姿勢なのか」が見えてきます。一方、中国語では先に提示された情報がそのまま受け手の理解のフレームになります。だからこそ、「最初に何を出すか」によって温度感や印象が大きく変わるのです。
語順で感情が変わる理由①:先頭に出た要素が焦点(フォーカス)になる

たとえば、次の2つの文を比べてみてください。意味は近いのに、受け取る印象は少し違います。
我很不高兴你这样说。
你这样说,我很不高兴。
前者は「不高兴(不快)」が先に来ており、感情そのものが主役になります。そのため、反応の強さや感情のストレートさが前面に出やすくなります。一方、後者は「あなたがそう言ったこと」を先に置いています。出来事→感情、という順で説明されるため、相手には「理由があって生まれた感情」として届きやすいといえるでしょう。つまり、同じ不満を伝えていても、語順を変えるだけで、角の立ちにくい方向に寄せることができるのです。
そしてこの違いこそが翻訳でよく起きる「意味は合っているのに、刺さる/刺さらない」の正体でもあります。では、別の例も見てみましょう。
例:謝罪の温度差
真不好意思,我来晚了。
我来晚了,真不好意思。
前者は「申し訳なさ」を先に出すことで、相手への配慮が前面に出ます。感情が先に提示されるため、謝罪の温度が高く感じられやすい表現です。後者は事実を先に置く分、落ち着いた印象になります。ただし状況によっては、「遅れた、悪いね」程度の軽さに聞こえることもあります。
例:喜びの“勢い”
太好了,我们成功了!
我们成功了,太好了!
前者は「太好了!」が先に来ることで、喜びが一気に噴き出すような印象になります。後者は成功を先に伝えてから喜ぶため、報告→感情という流れになり、やや理性的な響きになります。
語順で感情が変わる理由②:評価(感情)の程度変わる

中国語では、感情語・評価語(不高兴、担心、满意、遗憾、佩服、讨厌など)をどこに置くかによって、その感情が「相手の行動全体への評価」なのか、それとも「ある一点への反応」なのかが、受け手にはっきり伝わります。つまり、語順は感情の強さだけでなく、射程を決めているとも言えます。
例:心配の矛先
我真的很担心你。
你这样做,我真的很担心。
前者は人(你)そのものに向いた心配で、情のこもった言い方です。相手を思う気持ちがストレートに伝わりやすくなります。一方、後者は「你这样做(そうすること)」が前に立つため、心配の矛先が行動に向きます。その分、注意や指摘のニュアンスが混ざりやすくなります。翻訳するなら、前者は「本当に心配だよ」、後者は「そういうことをされると心配になる」といった温度差が出るでしょう。
例:不満の対象が「人」か「事」か
我对你很失望。
你这件事让我很失望。
前者は「あなたに失望した」となり、相手の人格や関係性にまで評価が及びやすい表現です。後者は「この件で失望した」と、対象を「事」に逃がしています。そのため、相手を直接傷つけにくく、問題点だけを切り出す言い方になります。ビジネス文脈の中国語、特にクレームやフィードバックの場面では、この「評価の逃がし方」が非常に重要になります。
語順で感情が変わる理由③:相手を先に立てるか、事実を先に立てるかで距離感が変わる

依頼や指示の場面では、語順の違いが最もわかりやすく印象に表れます。同じ内容でも、並べ方ひとつで「丁寧」にも「業務的」にも聞こえてしまうのです。
たとえば、次の3つの例文を見てみましょう。
请你明天把资料发给我。
明天把资料发给我吧。
资料明天发给我。
一般的に、上から順に次のような違いが生まれます。 1つ目:相手を先に立てた丁寧な依頼(“你”が見えており、配慮が伝わりやすい) 2つ目:柔らかい口調だが、状況によっては距離が近い印象 3つ目:要件先行で、指示・業務連絡らしさが強い
日本語の「資料、明日ください」を、そのまま3つ目の形に寄せて翻訳すると、場面によっては少し強く感じられることがあります。日本語は文末で印象を調整しますが、中国語は“並べ方”で距離感を調整する言語だと言えるでしょう。
例:断りの角を丸める
这个我现在不方便做。
我现在不方便做这个。
前者は「这个(これ)」を先に出すことで、対象を限定した断りになりやすい表現です。 一方、後者は「今は都合が悪い」が先に来るため、受け手によっては「今後も無理なのかな?」と、断りの範囲が広く受け取られてしまうことがあります。このように、「断りの範囲」をコントロールする意味でも語順は有効なのです。
具体例:同じ意味でも「柔らかい/強い」が変わる場面別ケース

ここからは、実務でも頻出するパターンを取り上げ、意味の違いではなく、「どう響くか」の差に注目して見ていきます。
1)感謝:定型か、対象強調か
非常感谢你的帮助。
你的帮助,非常感谢。
多亏了你,我才能完成。
1つ目は、自然で使いやすい定型表現です。 2つ目は「あなたの助け」を前に出すことで、感謝の向き先がはっきりし、特別感が出ます。 3つ目は「あなたのおかげで」を先に置き、感謝に背景や物語が乗る表現です。翻訳で「ありがとうございました」を一律に1つ目で処理すると、原文が持っていた熱量や個別性が落ちてしまうことがあります。
2)注意・指摘:人格攻撃に見せない
你又迟到了。
你今天迟到了。
今天你迟到了。
「又(また)」が入ると責めが強まるのはわかりやすいですが、実は語順でも印象に差が出ます。2つ目は「今天(今日)」という限定があり、必要以上に重くならない言い方です。 3つ目は状況(今天)を先に提示し、出来事として伝えてから相手に向けるため、やや角が取れた印象になります。翻訳の場面でも、相手との関係性次第でこの微調整が効いてきます。
3)驚き・評価:反射か、説明か
真没想到你会来。
你会来,真没想到。
前者は、感情が先に出る反射的な驚きです。後者は「来ること」を先に立てることで、驚きに含みが出やすくなります(嬉しい驚き/意外性の強調など)。
4)謝罪:配慮先行か、事実先行か
不好意思,让你久等了。
让你久等了,不好意思。
前者は「すみません」が先に来るため、相手の感情への配慮が前面に出ます。後者は事実説明→謝罪の順になり、場面によっては少し事務的に聞こえることもあります。接客やCS文脈では、前者のほうが無難に使われやすい、という実務感もあります。
語順を意識すると中国語表現はどう変わるか:翻訳・学習の実践ポイント

ここまで見てきたように、中国語では語順が感情・評価・距離感を細かくコントロールしています。最後に、翻訳や学習の場面で意識したいポイントを整理してみましょう。
1)「意味」より先に「焦点」を読む
まず注目したいのは、原文で最初に出てくる要素です。それが感情なら「感情先行」、状況なら「状況説明」、相手なら「相手に向けた発話」である可能性が高くなります。翻訳する際は、訳文でもその焦点をどこに置くかを意識すると、印象の再現性が大きく高まります。
2)感情語の位置で「評価の範囲」を調整する
評価や感情が、「あなた(人)に向いているのか」「この件(事)への反応なのか」。中国語では、語順によってこの切り替えがしやすくなっています。翻訳でもここを丁寧に拾うことで、過度に強くならず、話し手の意図を正確に伝えることができます。
3)距離感は「相手を先に立てる」だけで変わる
依頼・断り・指摘の場面では、語順ひとつで刺さりやすさが大きく変わります。 「你」や「请」をどこに置くか、状況語を先に出すかどうか。日本語の柔らかさは、中国語では「順番」でつくられる。 この感覚が掴めると、表現が一気に自然になります。
おわりに:語順は「感情の設計図」

中国語は、「何を言うか」だけでなく、「どう並べるか」で完成する言語です。語順は単なる文法ルールではなく、話し手の視線や感情、相手との距離感を映し出す設計図と言ってもよいでしょう。
翻訳においても、語順が示す焦点や評価の範囲を読み取り、訳文で同じ印象になるように再配置することで、意味以上の「伝わり」が生まれます。中国語を「意味+感情」で捉える視点を持つと、学習も翻訳も、確実に一段深いレベルへ進みます。
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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