中国語と聞くと皆さんは繁体字と簡体字、どちらをイメージされますか?
「え、中国語って2種類あるの?」と思った方にはぜひ、今回の記事を読んでいただきたいと思います。また、繁体字と簡体字があることをすでにご存じでも、具体的にどのような違いがあるのかよく分からないという方もいらっしゃるでしょう。以下の内容はそんな皆様にもきっと楽しんでいただけるはずです。
繁体字と簡体字の違いとは?
繁体字と簡体字の違いはビジュアルから明らかです。中国大陸で使用される簡体字(かんたいじ)はシンプルで、台湾・香港の繁体字(はんたいじ)は見るからに画数が多く、学習が難しそうな「風貌」をしています。例えば、以下の通りです。
明らかに繁体字がややこしく、簡体字がシンプルに見えますし、繁体字の中には文字サイズを大きくしないと一体どのように書かれているのかが分からない文字もあります。
例えば、「亀」の簡体字は「龟」ですが、繁体字では「龜」。よく見えないと思いますので、拡大すると以下のようになります。象形文字のようですよね!
「龜」
ちなみに、繁体字と簡体字の違いは「書き言葉」の違いのみで、地域による言葉の使い分けなどはあるものの基本的に読み方は同じです。
繁体字と簡体字の歴史
簡体字と繁体字のビジュアルが大きく異なるのは歴史の違いゆえです。漢字の起源は紀元前1,300年頃に中国に存在した殷王朝が発明した甲骨文字といわれています。甲骨文字は亀の甲羅や獣の骨などに刻まれ、雨乞いや占いに用いられました。その後、中国の歴代の王朝において漢字は事務処理や役人同士のコミュニケーションツールとして用いられ、変化を遂げてきました。
近代になり、課題になったのは、一般大衆にとって漢字が難しすぎたという点です。時期は中国の最後の王朝である清朝が倒れた時期と重なります。多くの文化人が西欧の文化を目の当たりにし、中には中国の漢字に劣等感をいだく人も出始めます。
その中に「狂人日記」や「阿Q正伝」で知られる文学者であり、革命家の魯迅がいます。彼は漢字について次のような感情を吐露しています。
この四角い字〔漢字〕の弊害を伴った遺産のお蔭(かげ)で、我々の最大多数の人々は、すでに幾千年も文盲として殉難し、中国もこんなザマとなって、ほかの国ではすでに人工雨さえ作っているという時代に、我々はまだ雨乞いのため蛇を拝んだり、神迎えをしたりしている。もし我々がまだ生きて行くつもりならば、私は、漢字に我々の犠牲となって貰(もら)う外(ほか)はないと思う。
『漢字と中国人』—文化史をよみとく— 大島正二 著/岩波新書 P 192 P 193より引用
その後、日中戦争、国共内戦(国民党と共産党の中国国内の内戦)を経て、1949年に中華人民共和国が成立しました。その際に中国共産党政府は国の近代化には漢字撤廃とローマ字による表音化が欠かせないとし、簡体字が正式に導入されることになりました。漢字が完全に撤廃されることはなかったものの、もとの形からかなり簡略化され、ピンインが使われるようになったのです。
その際、中華人民共和国の成立以前に英国領として割譲されていた香港島や九龍半島、ポルトガル領となっていたマカオ、そして中華民国政府が遷都した台湾には、中華人民共和国の行政権が及ばず、簡体字は導入されず、そのまま今日に及ぶというわけです。
繁体字と簡体字の使用エリア
歴史的な背景を理解すると、簡体字と繁体字の使用されているエリアが異なることも容易に理解できます。簡体字は中国大陸で、繁体字は台湾、香港、マカオをメインエリアとして使用されています。
シンガポール、マレーシアでも簡体字が使用されていることがありますが、メインエリア以外でどちらの漢字が使用されているかは中華系移民の出身地によって決まると言ってよいでしょう。
繁体字と簡体字、それぞれの醍醐味とは?
繁体字の醍醐味は何と言ってもその象形の美しさと、象形ひとつひとつに物語があるということです。一つの例を挙げてみましょう。
「學」
前出の「學」ですが、日本語も簡体字も上のかんむりの部分はシンプルに「学」と省略されてしまっています。しかし、繁体字のかんむり上部は二つの「×」が並び、「交差する」「混ぜる」様子をイメージしているようです。それを左右から挟み込むのは「手で包み込む様子」を表しています。
かんむりの下には屋根の下にいる子どもを表しているため、「学」という漢字から、子どもが先生から教えられ学んでいる様子が想像できます。つまり、子どもは一人で学ぶのではなく、先生やほかの子たちと「混ざ」り、互いの意見やアイディアをぶつけることで学習効果は加速されることが分かるのです。
ついでにもう一つ。2008年頃にネット上で流行した漢字に「囧(Jiǒng)」があります。こちらは繁体字でも、簡体字でも同じビジュアルです。
「囧」
眉がへの字になり、口がポカーンと開いている人の表情に似ていることに気づきます。この形から、もともとの意味を離れ、ネット上では「気まずい、困っている、何も言えない」という意味を表すようになりました。
こうした繁体字の形の面白さは簡体字を使う中国人にとっても共通のようで、私が中国大陸にいた頃も、特に若い世代があえて繁体字を使っているのを目にしました。
これに対して、簡体字の醍醐味は非常に合理的で、外国人でも学びやすいことです。漢字を日常的に使っている日本人でさえ、繁体字を学ぶのには相当骨が折れるのではないでしょうか?
実際、私が四川省で中国語を学んでいた頃に、南米や欧米の学生たちが頑張って簡体字をノートに繰り返し練習していた様子を思い出します。母国語がアルファベットによって表記される国の人は、簡体字なら学んでみようと思えるかもしれませんが、繁体字だとハードルが高く感じるかもしれませんね。
まとめ~これから勉強するにはどちらを選ぶべき?
簡体字は中国大陸のコミュニケーションツールであるため、圧倒的に使用者が多い点が魅力です。ただ、最終的にはどちらの字が「好きか」に尽きるでしょう。記事では繁体字の面白さについて紹介しましたが、簡体字が「エモい」と感じる友人もいましたので、人それぞれです。
自分が愛着が持てる文字を選ぶと、楽しく中国語を学べるはずです。
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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