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音声でつながる中国文化|喜馬拉雅FMと声優ブームの裏側


音響ミキシングコンソールの前に設置されたコンデンサーマイク、背景はぼかされた機材

中国といえば広大な国土と多様な文化が特徴ですが、その中でも「声」にまつわる文化はとてもユニークです。 中国の方言は数百にのぼるとも言われ、発音や抑揚も大きく異なります。 それゆえに、はっきりとした話し方が定着し、音声文化の土壌が育まれてきました。


その背景には、中国語の声調(四声)だけでなく、幼少期から「大きな声=良いこと」とされる教育や社会の価値観も影響しています。 そして現代では、音声配信アプリや声優業界の急成長により、「声」は新たなエンタメの中心へ。 本記事では、方言の多様性から音声コンテンツの最前線まで、中国の「声」文化の魅力をたっぷりご紹介します。



中国の方言はなぜ多い?その背景と特徴


北京の故宮(紫禁城)前に広がる広場と、散策する多くの観光客

中国に方言が多い理由とは?


中国は56の民族と、34の行政区にまたがる広大な国土を持ち、言語の多様性が極めて顕著です。とくに漢民族内においても、地域ごとに発展した言語体系が「方言」として根付いています。


地域ごとの歴史や民族の影響


たとえば、広東省では広東語(粤語)が使われ、四川省では四川話、上海周辺では呉語が主流です。こうした方言の成立は、山脈や河川による自然的な隔たりや、異民族との接触の頻度、各王朝ごとの言語政策に起因しています。



方言と普通話(標準語)の違いとは?


現在、教育やメディアでは普通話(pǔ tōng huà)が標準語として用いられていますが、地方では日常会話の多くが方言です。方言と普通話は単なるアクセントの違いにとどまらず、語彙、文法、音声体系にまで及ぶ差異があり、相互理解が困難なケースも少なくありません。


方言がもたらす音声文化の特徴とは?


このような多様な発音体系が存在するため、中国では「きれいな発音」、「明瞭な話し方」が強く評価される傾向があります。これが、音声表現へのこだわりや発展したナレーション文化、音声配信の土壌として機能しているのです。



なぜ中国人は声が大きいの?音声文化の理由



中国語の発音が自然と声を大きくする理由とは?


中国語(とくに普通話)には四声(高・上昇・下降上昇・下降)と呼ばれる声調があります。これにより、音の高低だけで意味が変わるため、発音は自然と明瞭で大きくなりがちです。

さらに、「破裂音(p, t, k)」などの有気音を強調するため、空気を勢いよく使う発音が多く、結果として声のボリュームが上がる傾向にあります。


教育や文化的背景はどう影響している?


中国では幼少期から「はっきり話すこと」が奨励されます。学校の朝礼での音読練習、詩の朗読、演説の訓練などを通じて「伝わる声=良いこと」という価値観が形成されます。これは都市部でも農村部でも共通する教育観です。


実際、中国の多くの学校では、「早读( zǎo dú)」という時間が設けられています。この時間、生徒たちは教科書や英語の文章を音読します。特に中国の中学・高校では、暗記科目(語学や国語など)の勉強時間として重視されている習慣です。


日本との「声の使い方」の違いとは?


日本では「控えめ」、「空気を読む」といった美徳が声のトーンに表れますが、中国では「自信を持って話す」ことが求められる場面が多いです。結果として、声の大きさや抑揚の豊かさに文化的な差異が生じています。



中国で音声配信アプリが人気の理由とは?


スマートフォンを見ながら笑顔で楽しそうに集まる4人の女性たち、屋外で秋の背景


喜马拉雅FM(ヒマラヤFM)のブームとは?


中国で音声コンテンツが支持される背景


喜马拉雅FM(Ximalaya)は、総ダウンロード数6億超、登録ユーザー数4億人、中国での業界シェア73%を占める音声プラットフォームです。音声を「ながら聴き」できる利便性と、移動時間・通勤時間の有効活用が支持されている背景です。


特に若年層に訴えるコンテンツを提供しており、リスナーの約6割が24~40歳、居住地も北京や上海の主要都市が全体の65%を占めているとのこと。加えて、インターネット接続が広がり、農村部でもスマートフォン一台で多様な情報にアクセスできるようになったことも喜马拉雅FM(Ximalaya)の急成長を後押ししています。


ヒマラヤFM の特徴と急成長の理由


ヒマラヤFM の急成長には以下の要素が考えられます。


・AI によるおすすめ機能 

・有料コンテンツの充実(講義、語学、ビジネス講座など) 

・音声投稿による個人クリエイターの参入


特に「知識の音声化」に強く、著名人によるトーク番組や、作家が自作を朗読する有料チャンネルが人気です。


ヒマラヤFM で人気のジャンルとは?


・ミステリー

・推理小説の朗読 

・歴史解説や時事評論 

・育児・教育に関するトーク番組 

・BL(ボーイズラブ)音声ドラマ


とくに「音声ドラマ」ジャンルは若年層女性の支持を集め、収益性も高い分野となっています。


ヒマラヤFM の使い方と楽しみ方とは?


アプリをダウンロード後、興味関心を選択するとパーソナライズされたコンテンツが表示されます。通勤中や夜のリラックスタイムに再生するユーザーが多く、SNS との連携でファンコミュニティも盛り上がりを見せています。



中国の声優が人気の理由とは?業界の現状と未来


デスクに設置されたコンデンサーマイクとヘッドホン、録音用アームとポップガードが備え付けられている

中国の声優市場はどれくらい成長している?


2020年代以降、アニメ・ゲーム・オンラインオーディオの発展に伴い、2024年の中国のオーディオ経済産業の市場規模は5,688億2,000万元(約11兆7,500億円)に達し、オンラインオーディオコンテンツのユーザー数は7億4,700万人に達しました。また、この業界では人材不足が深刻で、2,000万人以上の新たな人材が必要とされています。


中国の人気声優はどんな人たち?


例えば、张杰(Zhāng Jié、阿杰とも呼ばれる)、边江(Biān Jiāng)といった声優は、Weibo で数百万人のフォロワーを持ち、ライブ配信やイベント出演もこなす「声のアイドル」といえるでしょう。多くのファンが声優の「声」だけでなく「人柄」や「演技力」にも熱狂しています。


张杰は声優(配音演员: pèi yīn yǎn yuán)の仕事について次のように語っています。

”用你的声音的表演去和画面上的那个角色的表演去贴合”

「自分の声による演技を画面上のキャラクターの動きや感情にぴったり合わせること」

以下の二人のインタビューを是非ご覧ください。中国語が分からなくても、なぜ二人がこれほどまでに熱狂的に支持されるのか、その理由を垣間見ることができるはずです。


边江のインタビューはこちらから

张杰のインタビューはこちらから


日本の声優文化との違いとは?


日本では養成所や専門学校を経て声優になるのが一般的ですが、中国ではもともと俳優志望だった人や、インターネット出身の「素人」から転身するケースも多く見られます。それも、中国の人口の多さと、声優市場の急成長が引き起こしている人材不足ゆえといえるかもしれません。また、BL音声ドラマや乙女ゲームの人気が高く、恋愛を「聴く」文化が発展している点も特徴です。



中国の音声文化が生み出す新しいエンタメの形とは?


ライブ会場で手を挙げて盛り上がる観客の群衆、照明とスモークで熱気に包まれている

方言×音声ドラマが人気の理由とは?


最近では、広東語や四川話といった方言で展開される音声ドラマが人気を博しています。方言の響きやユーモアが作品に個性を与え、リスナーに「地元の空気感」を提供するツールとなっているのです。

トムとジェリー(猫和老鼠)の四川話バージョンはこちら。意味が分からなくても、四川話の響きが作品にさらにユーモアを与えていることを感じ取っていただけると思います。

ちなみにこちらは広東語バージョンです。音声の響きの違いを比較すると面白いかも。


ACG コンテンツや BL ドラマに見る熱狂的ファン文化


ACG(アニメ・コミック・ゲーム)を中心とする音声コンテンツには熱狂的なファンが存在します。特に BL 音声ドラマは、Weibo や Bilibili で「二次創作」「ファンアート」「声優応援企画」なども盛んに行われ、同人文化とも融合しています。


音声とコミュニティがつなぐ新たなトレンドとは?


音声コンテンツは、リスナー同士の交流を生む「声のコミュニティ」としても機能しています。ファンフォーラムやライブ配信、限定ボイスの配布などが行われ、音声が「参加型エンタメ」として進化しているのです。



まとめ|「声」がつなぐ中国の文化とエンタメの今


防音スタジオでヘッドホンをつけ、マイクの前で歌詞を見ながら歌っている男性

中国の「声文化」はどこへ向かうのか?


音声は、単なる情報伝達の手段から、感情・文化・ストーリーを伝える「メディア」へと変貌しています。方言の保存、地方文化の再発見、そして新たなスターの誕生など、「声」は中国のカルチャーを支える柱となりつつあります。

これから注目したい音声コンテンツとは?


・AI と連動したインタラクティブ音声コンテンツ

・地方方言による歴史ドラマシリーズ

・教育と音声学習の融合(語学アプリ×声優)


「聴く文化」が進化する中、次のトレンドを作るのは、「声」を使いこなす人々なのかもしれません。



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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。




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