潤いの秋、中国式ウェルネス:乾燥も心のゆらぎも整える五行の養生メソッド
- SIJIHIVE Team

- 16 時間前
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秋が深まると、澄んだ空気の中に少しの冷たさが混じり、木々は静かに色づいていきます。中国の伝統文化では、そんな季節の移ろいを単なる自然現象としてではなく、「心と体のバランスを整えるためのサイン」として大切にしてきました。
その考えの根底にあるのが「五行思想」ーー木・火・土・金・水の五つの要素で、自然と人の調和を読み解く中国古来の哲学です。
この記事では、五行思想の基本を紐解きながら、秋を健やかに過ごすための生活のヒントを紹介します。
中国の秋文化と五行思想のつながり

五行とは?「金」が示す秋の特徴(乾燥・肺・悲しみ)
五行思想とは森羅万象、つまり自然や人もすべてが、「木・火・土・金・水」という五つの要素のめぐりによって成り立っていると考える哲学です。
これは単なる“物質の分類”ではなく、変化の流れやバランスの法則を読み解くための知恵ともいえます。
五行で秋は「金」に属し、「収穫」や「静けさ」「整える」といった意味を持ちます。乾いた空気と冷たい風がその象徴で、この季節になると人の体も自然と内にこもり、エネルギーをためこむ働きが強まると考えられています。
中医学(東洋医学)では、秋は「肺」と「大腸」が活発になる時期とされ、乾燥による喉や肌の不調、便秘が起こりやすくなります。また感情の面では「悲しみ」が現れやすく、気分の落ち込みや孤独感を感じやすい季節でもあります。
中秋節や重陽節に見る五行の知恵(家族の絆や長寿祈願)
秋には「中秋節」や「重陽節」といった伝統行事があり、いずれも心を鎮め、家族を想う季節の儀式として大切にされています。
中秋節では、丸い月を「円満」の象徴として眺め、家族の団らんと調和を願います。日本ではあまり馴染みがありませんが、重陽節(旧暦9月9日)は「陽」が重なる吉日とされ、高い山に登ったり菊酒を飲んで長寿を祈る風習があります。
これらの行事には、「金」の季節が持つ“収穫・感謝・静寂”のエネルギーを、日々の暮らしの中に取り入れる知恵が息づいています。
食で整える“金”の季節の養生

肺を潤す白い食材(梨・百合根・白キクラゲなど)
秋の食養生では、「白い食材」を意識することが大切です。白は五行における“金”の色で、肺を潤し、乾燥から体を守ってくれます。
たとえば、梨は咳や喉の痛みをやわらげる働きがあり、はちみつと煮るとより効果的です。百合根(ユリネ)はストレスを鎮め、安眠を助ける作用があります。白キクラゲは「植物性コラーゲン」と呼ばれ、美肌にもよいとされます。
どれも体の「潤い」を取り戻す食材として、古くから人々に親しまれててきました。
五味のバランスを意識した薬膳レシピ(辛味を控え酸味を取り入れるなど)
秋は空気が乾燥し、肺がダメージを受けやすい季節。辛味(唐辛子や生姜など)を摂りすぎると潤いをさらに失うとされています。
そこでおすすめなのが、酸味をうまく取り入れたバランス食。黒酢を使った酢豚や、柿やザクロを合わせたサラダなど、ほどよい酸味が食欲を引き立てます。酸味には「収れん作用」があり、体のエネルギーを内にとどめる働きがあるとされます。
また、白キクラゲや豆乳を加えた温かいスープなど、「温+潤」を意識するのが秋の薬膳のポイントです。
体と心を整える伝統運動と呼吸法

太極拳や気功で陰陽バランスを調整
秋は、エネルギーが「陽」から「陰」へと静かに移り変わる季節。動き回るよりも、心身を安定させ、静かに整えることが大切です。そんな時期にぴったりなのが、太極拳や気功といった穏やかな動きの運動。
深い呼吸とともに体をゆっくり動かすことで、気の流れ(気血)を整え、冷えや倦怠感を防ぐことができます。特に太極拳は、呼吸・姿勢・意識を同時に整える「動く瞑想」ともいわれています。
肺を守り心を鎮める深呼吸と軽いハイキング
朝晩の空気が澄んでくる秋は、呼吸を意識して歩くのに最適な季節です。
公園や山道を歩きながら、深く息を吸い込むと、肺がゆっくりと広がり、心まで落ち着いていきます。中医学では「肺は気を司る」とされ、呼吸の質は感情の安定にも深く関わると考えられています。無理な運動よりも、軽いハイキングやストレッチなどの「ゆるやかな動き」を日課にしてみましょう。
秋の情緒とメンタルケア

五行で捉える「悲」の感情とその癒やし方
五行思想では、秋にあらわれる「悲」の感情はとても自然なものとされています。
夏の外向的なエネルギーが静まり、内省の季節に入ることで、心が静まり、時に孤独を感じることもあります。その感情を無理に押し殺さず、静かに受け止めることこそ、心の健康につながります。
中国の詩では「秋思(しゅうし)」という言葉がよく登場しますが、これは哀しみではなく、「心を見つめ直す時間」という意味を持ちます。秋は、自分の内面とゆっくり向き合い、“立ち止まる勇気”を持つのにぴったりの季節です。
月を眺めて心を整える瞑想と夜の過ごし方
秋の夜は、静けさと冷たさの中にやわらかな美しさが宿ります。
中秋の名月を眺めながら行う「月瞑想」は、古くから心を整える方法として親しまれてき
ました。月の光を浴びながらゆっくり深呼吸を繰り返すと、副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が穏やかに落ち着いていきます。
照明を落とし、スマートフォンを手放して静かに過ごす夜。それは現代に生きる私たちのための「秋の養心術」。心を鎮め、明日へのエネルギーを満たす時間にしていきましょう。
忙しい現代生活に五行を取り入れるヒント

仕事や家事の中で無理なく続ける養生習慣
五行の思想を日常に取り入れるのは、難しそうに思えるかもしれません。でも、実はほんの少しの工夫から始められます。
たとえば、朝起きて窓を開けて深呼吸する、温かいお茶をゆっくり飲む、白い食材を意識して摂る。これだけでも秋の養生につながります。
「忙しいからできない」ではなく、「忙しいからこそ整える」。そんな発想が、五行的ライフスタイルの第一歩です。
季節に合わせた一日の理想スケジュール
秋はエネルギーを内に向け、休息を重んじる季節。心身のリズムを整えるための、理想的な一日の過ごし方を見ていきましょう。
朝(6:00〜9:00):「肺」を開き、一日の気を取り込む時間
朝の冷たい空気は肺を刺激し、呼吸を深める絶好のタイミングです。
起床後すぐに3分の深呼吸と軽いストレッチや太極拳を行うと、「気」が巡り、体温が上がります。 朝食は温かいお粥や白湯、梨のコンポートなど“潤い”を意識したものを。
おすすめ食材:白粥、百合根スープ、温かい豆乳
避けたい習慣:冷たい水を一気に飲む、朝食抜き
午前(9:00〜12:00):「集中」と「静」のバランスを意識する時間
この時間帯は陽気が上昇し、集中力が高まります。
呼吸が整っていると仕事効率も上がります。 デスクワークの合間に、2〜3分の呼吸リセットを取り入れてみましょう。
呼吸法:「4秒吸って・4秒止めて・6秒吐く」を数回繰り返す
おすすめドリンク:菊花茶、ジャスミン茶(目と気分をリフレッシュ)
昼(12:00〜14:00):「脾・胃」を休める穏やかなランチタイム
秋の脾胃(消化器系)は冷えに弱くなっています。外食や油っぽい料理を控え、温かいスープや蒸し料理を中心に。 昼食後は15〜20分の休憩を取り、「消化を助けながら気を沈める」時間を作りましょう。
おすすめ食材:さつまいも・れんこん・きのこ・豆腐
避けたい習慣:食後すぐのカフェイン摂取、スマホチェック
夕方(17:00〜19:00):「金」の力を活かし、気を整える時間
一日の疲れが出るこの時間帯は、無理をせずペースを落とすのがコツ。
ここで無理に働きすぎると、肺の働きが弱まり、乾燥トラブルが出やすくなります。 軽いウォーキングやヨガ、深い呼吸を伴う気功がぴったりです。
夕食は塩分控えめにし、白キクラゲや豆腐のスープなどで“潤い”を意識。
おすすめ食材:白キクラゲスープ、豆腐鍋、銀杏ご飯
避けたい習慣:遅い時間の激しい運動、夜遅い食事
夜(21:00〜23:00):「陰」を養い、心を鎮める時間
夜は“水”の気が強まる時間帯。
秋はその入口にあたり、静かに心身を整えるのが理想です。寝る前のスマホやPCの光は「肺」の気を乱すので避けましょう。月を眺めながら深呼吸し、心を落ち着ける――それが現代の「秋の養心術」です。
おすすめ習慣:ハーブティー(菊花・百合・陳皮など)、読書、日記
避けたい習慣:夜更かし、SNS・ニュースの見すぎ
自然のリズムに寄り添いながら過ごすことが、秋の心身を健やかに保つ秘訣です。
まとめ

秋は「収穫」と「整え」の季節。五行思想でいう「金」の力を活かし、肺を潤し、心を静め、自分を見つめ直す時間を持つことで、冬への備えが自然と整います。
忙しい現代だからこそ、中国の伝統的な健康法に学び、季節とともに生きる感覚を少しずつ取り戻していきましょう。
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。



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