中国語はひとつじゃない!?~300以上の言語が共存する「方言大国」の素顔~
- SIJIHIVE Team
- 4月29日
- 読了時間: 6分

日本には方言がいくつあるかご存じでしょうか?諸説ありますが、「方言区画論」によると、16種類の方言が日本には存在するといわれています。
では、中国はいかがでしょう?驚くなかれ、中国ではなんと300以上の言語や方言が話されているとのこと。そもそも最近の記事で取り上げたように中国では漢民族以外の少数民族が55共存しており、それぞれ民族固有の言語があります。そのため、「方言」を使えば、中国人同士でもまったく通じ合えないこともしばしば。
今回は「方言大国」である中国の方言事情にフォーカスし、方言ごとの特徴や文化、成り立ち、それぞれがもつストーリーを紐解いていきましょう。
中国語の方言とは?

日本人が「方言」ときいて思い浮かべるのは関西弁や博多弁などかもしれません。地域ごとに特徴はあるものの、ほとんどの場合、相手が何を言っているかしっかりと理解できます。しかし、中国の方言は日本の場合とはレベルが違います。
中国語の方言は、発音や語彙だけでなく、文法や語順、音節の構成までもが異なる場合がほとんどです。ですから、お互いの会話が全く理解できないこともあるのです。
そのため、方言というより、別の言語として区分すべきだという学者もいます。だからこそ、中国では北京語をベースにした標準中国語をしっかりと学ぶ必要が高いといえます。
中国の7大主要方言

中国語の方言は大きく7つのグループに分けられます。それぞれに地域の歴史や文化が反映されており、言葉を通じてそれぞれの土地が持つストーリーを感じられます。
方言 | 話されているエリア | 特徴 |
北方語(官話) | 中国北部から西部、東北部 | ・北京語もこの中に含まれ、普通話のベースになっている ・語彙は比較的シンプルで発音も明瞭 |
粤(えつ)語(広東語) | 香港や広東省、マカオ | ・香港映画やカンフー映画、カントポップ(広東語ポップス)を通じて広く親しまれてきた ・声調(イントネーション)が9つもある(標準中国語は4つ)ため、発音は非常に難易度が高め |
呉語(上海語など) | 上海や蘇州など | ・音の数が多く、旋律のように滑らかな響きが特徴 ・日本語の「カ行」と「ガ行」のような微妙な違いも多く、日本人にとっては意外と親しみやすい |
閩(びん)語(福建語) | 福建省、台湾、東南アジアの華僑コミュニティなど | ・古代中国語の影響が強く、語彙や発音が最も「古い中国語」に近いとも言われる ・日本統治時代の台湾でもこの方言は使われ続け、文化の根強さを物語っている |
湘語(湖南語) | 湖南省 | ・北方語と呉語の中間的な特徴を持つ ・表現が直截的で、地元では「豪快な言葉」としても知られる |
贛(かん)語 | 江西省 | ・地域ごとに細かく発音や語彙が異なり、隣の村と通じないこともある ・文献が少なく、まだ研究が進んでいない謎の多い言語 |
客家(はっか)語 | 広東、台湾、東南アジアなど | ・中国をルーツに持つ移民「客家人」が話す言葉 ・保存意識が非常に高く、歌や文学を通じて代々伝えられてきたのが特徴 |
方言形成の背景

中国においてこれほどまでに方言が豊富なのは、以下のような理由があるといわれています。
歴史的要因
中国は長い歴史の中で王朝の交替や戦争、北方からの騎馬民族の侵入、行政の再編などを繰り返してきました。
例えば、私がかつて四川省に住んでいたころ、現地の人たちが自分たちの言語が北方語と多くの共通点があると言っていたことを思い出します。確かに四川語、北方語にはいずれも巻き舌音(er 化)が含まれていました。地理的にはまったく近接していない場所なのに「なぜ?」と尋ねたところ、自分たちの先祖が戦争から逃れるために北方からやって来た、と彼らは教えてくれました。
地理的要因
中国の地図を見るとすぐに分かるように山脈や河川、盆地など起伏に富んだ自然環境に人々の移動は制限されました。今のように飛行機や車がない時代、外部から別の言語が流入してくることも少なく、互いに影響を与えることもなかったのです。
社会的要因
農業国である中国で人々は生涯同じ村で暮らすことが一般的でした。今でも農村から都市部に引っ越すことなく、一生を終える中国人はたくさんいます。そのため、地域内の言葉がそのまま保存されてきたことが考えられます。
かつて湖南省の大学で教鞭をとっていたとき、学生は湖南省の各地の農村部からやってきていました。興味深かったのは、学生同士が方言で話すと同じ湖南省であってもまったく通じ合えないということです。それは彼らの故郷が山など自然環境で隔絶されていたためで、地図では近いように見えても、人々の交流の機会がなく、各方言が独自の進化を遂げたためだと考えられます。
方言と文化

日本ではおなじみのジャッキー・チェンに代表される香港映画ですが、実は話されているのは標準中国語ではなく広東語です。広東語が持つテンポの良さ、音楽のような語感は映画の魅力を倍増させたといえます。広東語を母語としない中国人たちもそのキャッチ―な特徴に魅了され、独学で学ぶ人もたくさんいます。
広東語と標準中国の違いをテーマにしたコントはこちら
伝統的な上海語を話せる人が減少しているため、上海語を使って上演される伝統芸能を継承できなくなるのでは、という懸念もあります。そのため、上海政府は上海語を保護するためさまざまな政策を打ち出しています。例えば、正しく発音された上海語を録音して保存したり、テレビ番組でも上海語のドラマやバラエティ番組を増やしたりしているようです。
上海語の朗読はこちら
ちなみに私が2008年から四川大学に通って中国語を学んでいたころは、大学の講義に「四川語」の講座があり、私も受講していました。四川語の雰囲気を知りたい方はこちらから。
方言学習の魅力と挑戦

方言を学ぶとその土地の文化をより深く理解できるようになります。頭で理解するだけでなく、その土地とそこの暮らす人々を「愛する」ことができるようになります。
実際、私が四川語を学び、片言であっても四川語で話しかけようとすると、相手が笑顔になり、とても喜んでくれたことを思い出します。方言は人々のアイデンティティであり、誇りです。そのため、標準中国語だけでなく、相手の方言を学ぶことは相手に対するリスペクトになるのです。
一方で課題も多く、教材の少なさは大きなハードルです。ほとんどの方言には体系的な教科書や音声資料はないため、学ぶためには地元の人と直接話すしかない、というケースも少なくありません。
ただ、現在は Youtube や Podcast でネイティブが話すたくさんの教材も見つけることができるため、興味があるものをチェックしてみてはいかがでしょうか?
まとめ:方言が織りなす中国の多様性

中国で生活して気づいたのは、中国人は自分が「中国人」というよりも「四川人」「湖南人」、もっといえば「どこの村や町」の出身かということを大事にするということです。
言葉に関していえば、確かにほとんどの人が標準中国語を話せるものの、そこには彼らのアイデンティティは存在しません。方言の中にこそ、彼らの本質、カルチャー、ストーリーが織り込まれているのです。
誰か中国の友人がいるなら、その方の出身地の方言を一言でも良いので教えてもらいましょう。そして、その言葉で語りかけてみてください。間違いなく相手はあなたに微笑んでくれるでしょう。
参考サイト:
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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