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伝わる中国語④〜その返事、脈あり?脈なし?ニュアンスに隠された中国語の同意・拒否表現

水面に反射する「YES? NO?」の文字が中央に浮かぶ静かな構図

中国語は「白黒はっきりした言語」だと思っていませんか?


「自己主張が強い」「はい・いいえをはっきり言う」「ストレートで遠回しな表現は少ない」そんな印象を抱いている方も多いかもしれません。日本語はどちらかといえば曖昧で、空気を読む言語。一方、中国語は明快で、物事をはっきり伝える言語。そうした対比で語られることも少なくありません。


しかし、実際に中国語で仕事や日常的なやり取りをしてみると、そのイメージが揺らぐ場面に出合うことがあります。「悪くなさそうですね」「少し考えてみます」「また連絡します」など、一見前向きにも聞こえる返事なのに、その後なかなか話が進まない。はっきり断られたわけではないのに、自然と距離が置かれていく、そんな経験をした方もいるのではないでしょうか。


実は中国語のコミュニケーションでは、「はい」「いいえ」を直接言わない表現が数多く使われています。それは単なる曖昧さではありません。関係を保ち、相手の面子(メンツ)を尊重するために選ばれた言葉なのです。日本語とは異なるかたちで配慮が組み込まれていることが、中国語の同意・拒否表現の大きな特徴と言えるでしょう。


本記事では、中国語における「同意」と「拒否」のあいまいな境界線を、文化的背景と具体的な表現の両面から読み解きます。日本人が誤解しやすいポイントを整理しながら、実務や日常の場面で役立つ「受け取り方」のヒントを紹介します。



「はい」と言わない返事が生まれた背景


半分だけ仮面を当てた人物の顔のクローズアップ

中国語のコミュニケーション文化


中国語の会話では、日本語以上に「関係性を壊さないこと」が強く意識されます。ここで言う関係性とは、単に仲が良いかどうかではなく、今後もやり取りが続いていくことを前提とした社会的なつながりを指します。中国語のコミュニケーションでは、その場で結論を出すことよりも、「相手との関係をどう保つか」が優先される場面が少なくありません。


そのため、相手の提案に対して即座に「不行(できません)」や「不要(要りません)」と答えることは、強い拒否として受け取られやすくなります。日本語であれば率直な返答と受け止められる場合もありますが、中国語の文脈では、話題そのものを否定するだけでなく、相手の判断や準備、さらには提案に込められた誠意まで否定したように響いてしまいやすくなります。


たとえばビジネスの場面で「この条件で進められますか」と尋ねられた際に、単刀直入に「不行」と返してしまうと、「その条件では難しい」という事実以上に、「この話は受け入れられない」「これ以上議論の余地はない」という強いメッセージとして伝わりかねません。こうした衝突を避けるため、中国語では結論を曖昧にした表現が多用されます。


「我考虑一下(少し考えます)」

「现在还不好说(今は何とも言えません)」


これらは単なる先延ばしではありません。相手を否定せず、関係を保ちながら距離を取るための、極めて実用的な言葉として機能しています。中国語で「はい」とも「いいえ」とも言わない返事が多いのは、このようなコミュニケーション文化に根ざしたものなのです。



面子(メンツ)を大切にする考え方


中国語の同意・拒否表現を理解するうえで欠かせないのが、「面子(メンツ)」という考え方です。日本語では面子を「プライド」や「体面」と訳すことがあります。しかし、中国社会における面子は、それだけでは捉えきれない、より社会的で関係性に根差した概念です。


中国における面子とは、周囲からどのように評価されているか、どのような立場として扱われているか、そしてどのような人間関係の中に位置づけられているか――そうした社会の中で可視化された信用や評価の積み重ねを指します。重要なのは、面子が個人の内面だけで完結するものではないという点です。他者とのやり取りを通じて形成され、維持されるものなのです。


そのため、相手の提案を真正面から否定することは、単に意見が合わないという問題にとどまりません。相手の判断力や立場、そこに至るまでの努力や誠意そのものを否定されたと受け取られる可能性があります。このような状況では、相手は「断られた」という事実以上に、「面子を失った」と感じてしまうこともあります。


だからこそ、中国語では相手の面子を保ったまま距離を取る表現が発達してきました。はっきり断らず、余地を残した言い方を選ぶのは、優柔不断さの表れではありません。相手との関係を壊さずに自分の立場を守るための、きわめて高度なコミュニケーション技術なのです。


中国語の「はい」と言わない返事は、曖昧さではなく、社会的なバランス感覚の上に成り立っています。その背景を理解することで、同意や拒否の表現は、より立体的に見えてくるはずです。



同意と拒否の境界があいまいな理由


「YES」と「NO」の矢印が交差し選択を象徴するグラフィック

白黒をはっきりさせない安心感


中国語では、物事を白黒はっきりさせないこと自体が、コミュニケーション上の安心感につながる場合があります。結論を固定しないことで、後から考え直す余地を残すことができ、状況の変化にも柔軟に対応できます。そして何より、人間関係を硬直させずに保つことができます。


たとえば、「有机会的话可以合作(機会があれば協力できます)」という表現があります。この言葉は、日本語の感覚では前向きな同意として受け取られやすいものです。しかし中国語の文脈では、「今は条件が整っていない」「現時点では具体的な話には進めない」という含みを持つことが少なくありません。可能性そのものを否定しているわけではないけれども、すぐに実行段階に入る意思表示でもない、そんな微妙な位置づけの表現なのです。


このように、中国語では結論を曖昧にすることが、優柔不断さではなく、将来の選択肢と関係性の両方を守るための、現実的で合理的な判断として機能しています。


関係を続けるための言葉選び


中国語の返事は、「今この瞬間の結論」よりも、「この関係をどう続けていくか」に重心が置かれています。今は断らざるを得ないが、将来的な可能性までは閉ざしたくない。あるいは、相手を否定せずに一定の距離を取りたい。そうした場面で選ばれるのが、同意とも拒否とも取れる表現です。


これらの言葉は、相手に過度な期待を持たせない一方で、完全な拒絶も避けています。結論を曖昧にすることは、単なる先送りではありません。中国語における曖昧な返事は、関係を維持するための「調整弁」として機能しているのです。



中国語表現に隠れた本音


暗い画面に光る UI が表示されたスマートフォンの接写

前向きに聞こえるが即決ではない言葉


実務の現場でよく耳にする中国語表現には、前向きに聞こえながらも、即決を意味しないものが数多くあります。


「听起来不错(聞く限り悪くなさそうですね)」

「这个想法很有意思(面白い考えですね)」


これらは相手の提案を評価し、共感を示す表現です。しかし、それがそのまま「やります」「進めましょう」という意思表示につながるとは限りません。あくまで好意的な反応であって、決定ではないのです。


また、「我们再看看吧(もう少し様子を見ましょう)」という表現も、表面上は協議を続ける姿勢のように映りますが、実際には「現時点では前に進めない」というサインであることも少なくありません。特に「再看看」や「再联系」といった言い回しは、話題をいったん保留し、距離を置きたいときに使われやすい表現です。前向きさを残しながらも、結論は出さない。そのバランスがここに表れています。


断りに近いが否定しない表現


一方で、より拒否に近いニュアンスを持ちながらも、否定を直接口にしない表現もあります。


「现在不太方便(今はあまり都合がよくありません)」

「最近比较忙(最近ちょっと忙しくて)」


これらは状況説明の形を取っていますが、実際には「今回は受けられない」という意思表示として使われることが多いようです。文字通り受け取ると誤解が生じやすい表現です。


「条件上还有一些问题(条件面で少し問題があります)」も同様です。問題点を具体的に示さないまま使われる場合、それは条件交渉に入る意思がないことを、やんわりと伝えている可能性があります。中国語には、相手を正面から否定せずに断るための言葉が豊富にあります。そこには結論そのものよりも、関係をどう保つかを重視する姿勢が表れているのです。



日本人が誤解しやすいポイント


真っ白な空間にぽつんと立つ小さな人物のシルエット

YESだと思って進めてしまうケース


日本人が中国語の返事を受け取る際に陥りやすいのが、「悪くなさそう」と言われたらOK、「考えてみる」と言われたら前向き、と解釈してしまうことです。その結果、「では次に進めましょう」と当然のようにアクションを起こし、相手との間に温度差が生まれてしまうことがあります。


こうした場合、しばらくすると相手からの返事が来なくなったり、話題そのものが自然にフェードアウトしたりすることがあります。中国側から見ると、すでに距離を取るサインは出していた。それが伝わっていなかった、という状況です。ここに、認識のズレが生じています。


相手の立場を見落としてしまう場面


もう一つの落とし穴は、相手がなぜ曖昧な表現を選んでいるのか、その背景を考えないまま判断してしまうことです。社内調整が必要な立場であったり、上司の判断を仰がなければならなかったり、あるいは自分の権限では即答できない事情がある場合もあります。


こうした可能性を考えずに、「はっきりしてください」「結論を出してください」と迫ってしまうと、相手の面子を損ね、関係そのものにひびが入ることがあります。曖昧な返事の裏にあるのは、個人の性格ではありません。立場や環境、そして守るべき関係性であることが多いのです。



誤解を減らすためのコミュニケーションのコツ


会議中、スーツ姿の人物がペンを持って真剣に話を聞いている様子

言葉より文脈を読む姿勢


中国語でのやり取りでは、言葉そのものよりも文脈を読む姿勢が欠かせません。相手がどのような立場にあり、これまでどのようなやり取りをしてきたのか。そして今がどのようなタイミングなのか。こうした背景を総合的に捉えることで、その返事が同意なのか、保留なのか、それとも実質的な拒否なのかが見えてきます。単語の意味だけで判断しないこと。それが誤解を防ぐ第一歩になります。


返事の裏にある意図を想像する


誤解を減らすためには、YESかNOかを迫るのではなく、相手が本音を言いやすい聞き方を選ぶことが重要です。たとえば、「如果可以的话,大概什么时候能决定呢?(可能であれば、いつ頃判断できそうですか)」と尋ねれば、判断のタイミングや制約条件が見えてきます。


また、「目前最大的顾虑是什么?(今いちばんの懸念点は何でしょうか)」と聞くことで、相手が直接は言いにくかった本音を引き出せる場合もあります。


結論を急がず、相手の言葉の背景にある意図を想像しながら対話を続けること。それが、中国語でのコミュニケーションにおいて、誤解を減らす最も確実な方法です。



おわりに


横顔のクローズアップで、柔らかな光に照らされた人物の澄んだ瞳

中国語の同意・拒否表現は、一見すると曖昧で分かりにくく感じられるかもしれません。しかしその背景には、関係を大切にする価値観と、相手への深い配慮があります。中国語では、はっきり言わないことが、必ずしも不誠実さを意味するわけではありません。むしろ、関係を守りながら意思を伝えるための工夫が、言葉の中に織り込まれています。


言葉だけを表面的に訳すのではなく、「なぜこの言い方が選ばれたのか」を考えること。それこそが、本当に「伝わる中国語」への第一歩です。





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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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