
毎回ご好評いただいている中国のトレンドワード紹介、日本では年末に「今年の漢字」を見れば世相が分かるように、中国で流行している言葉を見れば中国の「今」が見えてきます。
では、さっそくチェックしてみましょう!
2024年のトレンドワードはこちら:2024年最新中国トレンドワード
1.消费降级(Xiāofèi jiàngjí)

漢字をみれば意味はお分かりになるでしょう。「消費をダウングレードする」、日本語にあえて翻訳すれば「節約志向」というところでしょうか?かつて中国人観光客といえば「爆買い」というイメージがありましたが、中国経済の停滞で個人の財布の紐もかたくなっているようです。
特に春節の時期、家族へのお土産や団らんのために数か月分のお金をつぎ込むことが当たり前だった中国の方々の考え方も、先行きに対する強い不安感により大きく変化しています。厳格なゼロコロナ政策が解除された直後、しばらくは経済が上向きになることへの期待が高まりましたが、すぐに悲観的な予測が先行し、消費は冷え込んでしまいました。
「節約志向」の一つの表れとして、中古品の人気が挙げられます。かつては日本のデパートでブランド品を購入していた方々が、今では日本にやってきても中古品を扱うお店に足を運ぶ姿を見かけます。
アリババグループが運営する中国最大級のフリマアプリであり、日本のメルカリ的存在である「閑魚」では、毎日10億元(約210億円)以上の取引がおこなわれており、若者一人がこのプラットフォームで稼いだ金額は平均2,724元(約57,000円)になったそうです。
ちなみにこの言葉は中国で2018年の流行語に選ばれています。
city不city

この言葉は中国で2024年度の10大流行語に選ばれました。
これまでも英語と中国語を組み合わせた言葉はネット上を中心に若者たちの間で用いられていました。その中には中国語の「頑張れ!」を意味する「加油」の「加」を英語の「add」に変換して「add油」と表現する例などがあります。
この「city不city」は外国人インフルエンサー「保保熊」が上海を訪れた際に投稿した動画の中で用いられたものです。保保熊は動画の中の妹との会話の中で「上海city不city啊?」「好city啊!」と中国語と英語を混ぜ、「city」を「都会的」「おしゃれ」という形容詞として使いました。
勉強されている方はお分かりになると思いますが、中国語では状態について尋ねるときに同じ形容詞の間に「不」を挟んで表現することがあります。例えば、「好不好吃?(美味しいですか?)」「冷不冷?(冷たいですか?)」といった具合です。
つまり、保保熊と彼の妹は動画の中で「上海っておしゃれだよね~」「すっごいおしゃれ!」という会話をしていたわけです。

躺平(tǎng píng)

この言葉は中国で2021年の流行語に選ばれました。
「躺」はもともと「横になる」という意味ですが、そこから派生した「躺平」とは「頑張らない、競争しない」という意味や「最低限の消費水準の生活に満足し、穏やかに暮らす」ライフスタイルを意味するようになりました。日本語では「寝そべり主義」とか「寝そべり族」と訳されることもあります。
この言葉の起源は、駱華忠(ルォ・ホァジョンさん。寝そべり族のブームを起こした第一人者)のインターネット上への次の投稿から始まったといわれています。
“躺平就是我的智者运动,只有躺平,人才是万物的尺度
(Tǎng píng jiùshì wǒ de zhìzhě yùndòng, zhǐyǒu tǎng píng, réncái shì wànwù de chǐdù.)”
意味:横たわることこそが私にとっての賢明な活動であり、人間は横たわることによってのみ万物の尺度になれるのです。
2016年、駱華忠は26歳のときに工場での仕事に虚しさを感じ、退職。その後、四川省からチベットまで2,100キロを自転車で走ったり、故郷に帰ってからは哲学書を読んだりしながら、猫のように暮らしていたといいます。
そんな彼の思想やライフスタイルは熾烈な学歴社会、競争社会に疲れ、先が見えない日々を送る若者たちの共感を生みました。
4.水灵灵地×××(shuǐling líng de )

もともとは「みずみずしい」という意味を持つ語ですが、2024年の流行語に選ばれたのは、韓国の女性アイドルグループのメンバーである洪恩採が動画の中で写真を見せながら語った次の言葉に由来します。
“我就这么水灵灵地在中间,周围都是可怕的姐姐们。
“Wǒ jiù zhème shuǐling líng de zài zhōngjiān, zhōuwéi dōu shì kěpà de jiějiěmen.
訳:真ん中の元気で可愛いのが私、それを怖いお姉さま方が囲んでいるのよ~

これを見たネット民たちが直ちに反応し、「水灵灵地」を使い始めたのがトレンドのきっかけになりました。この語を定義するのは難しいですが、「若さ溢れる、人目を引く」という意味になるでしょうか。
のちにこの語はさらに拡大解釈され、「咱们一起水灵灵地出发吧(エネルギッシュに出発しましょう!)」という使い方もされるようになりました。
5.班味(Bān wèi)

この言葉は「仕事の疲労やストレスによるくたびれた雰囲気」という意味です。中国語を学んでおられる方は気づかれると思いますが、「班」とは「上班(出勤)」「下班(退勤)」の「班」であり、仕事を指します。
「996(朝9時から夜9時まで週6日働く)」に代表されるハードな勤務形態に疲れ、目の周りにはクマができて、疲れがにじみ出ているような風貌を指します。SNS 上には自らの「班味」と、そうでない写真を並べて投稿する若者たちもたくさんいます。
日本語の「仕事の疲れをとる」は「去除班味(Qùchú bān wèi)」といいます。

6.松弛感(Sōngchí gǎn)

「松弛」もトレンドワードとして作られたわけではなく、もともと中国語にあり、その意味は「緊張していない」とか「(制度や規律が)厳しくない」ことを含みます。
トレンドワードとして注目されるようになってからは主に「焦らず、自信があり、情緒的にも安定しており、自分にも周りにも心地よく接することができる」状態を指します。
特に2024年のパリオリンピックのときに中国選手団の「00后(2000年以降生まれの世代)」の選手たちがプレッシャーに上手に対処しながら、自信に溢れている姿を称して「松弛感」がネット上では頻繁に用いられました。
7.银发力量(Yínfà lìliàng)

このトレンドワードの意味は漢字から推測できる通り、「シルバーパワー」です。トレンドワードといっても、この語が使われるようになったきっかけは習近平主席の次のコメントです。
为推进中国式现代化贡献‘银发力量’
Wèi tuījìn zhōngguó shì xiàndàihuà gòngxiàn ‘yínfà lìliàng
意味:中国式現代化を推し進めるための「シルバーパワー」に貢献する
その背景には日本と同じように高齢化が進む中国社会の現状があります。2024年現在、60歳以上が総人口の2割を突破し、2035年までには総人口に占める割合は3割を超えるといわれています。
8.小孩哥/小孩姐(Xiǎohái gē/xiǎohái jiě)

「小孩(Xiǎohái)」とは「子ども」のことで、「哥/姐(gē/jiě)」とは先輩に対して親しみを込めて使う「兄さん」「姉さん」という敬称です。
それを組み合わせたこのトレンドワードは、小さくても大人顔負けの才能を発揮する子どもたちを意味します。日本語に訳すとすれば「スーパーキッズ」というところでしょうか。
まとめ

中国の2024年10大流行語を中心に、2025年最新のトレンドワードを8つご紹介しました。その背景にあるのは不景気や就職難に苦しむ若者たちの悲哀やストレス、少子高齢化に突入した中国社会の矛盾です。
同時に英語と中国語を組み合わせた「city不city?」のような遊び心のある流行語もありました。「city」の部分を他の英単語に入れ替えて使ってみるのも面白いかもしれません。
このブログでは引き続き中国のトレンドワードをウォッチしていきます!
参考サイト:
・中国の節約消費事情 中古品、売れ残り品が人気に|海外情報ナビ
・中国で高まる節約志向「消費降級」が流行語に | エコノミストオンライン
・“内卷”与“躺平”之间挣扎的中国年轻人|BBCNEWS中文
・你的“班味”很重吗?气象人的“班味”究竟是啥味!
・2024年十大流行语公布!
・進む中国の高齢化、「60歳以上」が総人口の2割突破|東洋経済
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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