オリンピックやワールドカップなどで見かける、世界各国の国歌斉唱。
各国の代表が歌う国歌を聴くと「国歌ごとに曲調がずいぶん違うなぁ」と感じたことがある方もいるのではないでしょうか。
国歌はその国の文化と深く関係しています。国歌の歌詞やメロディを読み解くことで、その国の文化や歴史が見えてくるでしょう。
本記事では、日本の国歌を中心に歌詞の意味や成り立ちについて紹介します。
日本以外の世界各国の国歌についても触れていますので、国歌や歴史、文化背景に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
国歌にはその国の文化や歴史が反映されている
国歌の歌詞を読み解くと、その国の文化、歴史、アイデンティティが色濃く反映されていることがわかります。実際に国歌の歌詞には、その国の歴史的背景や象徴的な出来事が織り込まれているケースも少なくありません。
たとえば「武器をとれ、同志たちよ。隊列を組め。進もう、進もう!」は、フランス国歌『ラ・マルセイエーズ』の歌詞の一部です。フランス革命の精神を象徴しており、自由と平等のために戦う姿勢が歌詞に表れています。
また「星条旗はまだ翻っているだろうか。自由の地の上で、そして勇者たちの故郷で」は、アメリカの国歌『星条旗』で、独立戦争の勝利を祝う内容が特徴的です。
国歌は単なる音楽ではなく、国の重要かつ文化的なシンボルだといえるでしょう。国歌の歌詞を読み解くことで、その国の成り立ちや文化を感じることができます。
日本の国歌『君が代』の成り立ちや意味について
日本の国歌は言わずと知れた『君が代』ですが、成り立ちや歴史的な背景までは知らない方も多いのではないでしょうか。
日本の国歌である『君が代』について、ちょっとした豆知識も織り交ぜながら解説していきます。
初代『君が代』の作曲者はイギリス人、歌詞の原型は「よみ人しらず」の歌だった
初代『君が代』は明治3年にイギリス陸軍軍楽隊長 J. W. フェントン作曲で作成されました。
しかし初代の『君が代』の旋律は日本人の感性に合わなかったことから、その後新たに作り直され、明治13年に宮内省式部寮雅楽課によって宮城内で初演された歌が現在の『君が代』です。
歌詞の選定や作曲者に関しては諸説ありますが、歌詞は『古今和歌集第7巻』賀歌の部に「よみ人しらず」で記載されている歌が元になったといわれています。また、改変後の作曲者は宮内省楽部伶人の林廣守であるとの説が有力です。
『君が代』は世界最古の国歌として、ギネスブックにも認定されている歴史ある歌です。和歌としては1,000年以上、国歌としては100年以上も歌い継がれている『君が代』ですが、初代の作曲者がイギリス人であることや、「よみ人しらず」の和歌が歌詞の元になっていることは日本人でも知らない方が多いのではないでしょうか。
『君が代』は世界で最も短い国歌
また、『君が代』はわずか「32文字」という短い歌詞で作られており、世界で最も短い国歌としても知られています。
これは先述したとおり、『君が代』の歌詞が『古今和歌集』に収録されている和歌が元になっているからです。
国歌にも和歌の形式である五・七・五・七・七で、想いや情景を詠む文化が表れています。
元の和歌の原文と現代語訳は以下のようになります。
原文:我が君は 千世にやちよに さざれいしの いはほとなりて 苔のむすまで
現代語訳:あなた様が千代も八千代も長生きしますように。小さな砂利が悠久の年月を経て巌となり、さらにそれに苔が生えるほどまでも
『君が代』は歌詞と旋律を通じて日本の伝統や美意識を保ちながら、長寿や繁栄を表現しており、世界でも評価されている国歌です。
実際に『君が代』は、ドイツでの世界国歌評定会で第1位の秀歌に選定されています。
『君が代』から読み解く日本文化
『君が代』は、歌詞やメロディに日本文化が多く反映されています。
たとえば、『君が代』の歌詞に登場する「さざれ石の巌となりて」とは、小さな石が年月を経て大きな岩となる様子を描写し、長寿や繁栄を表現しています。歌詞の原文は1,000年以上前に作られたものですが、日本人の自然観や時間に対する独特の感覚が垣間見えます。
また、各国の国歌と比べると『君が代』はずいぶん穏やかな曲調であると感じている方もいるのではないでしょうか。
実は『君が代』のメロディは、日本古来の雅楽の旋律を元に作られています。J. W. フェントンの作曲した初代『君が代』のメロディが日本人の感性に合わなかったことから、日本人作曲家の林廣守が雅楽の旋律を取り入れたとされています。
雅楽の影響を受けた穏やかな旋律は、日本の伝統的な音楽文化を反映しています。他国の国歌とは雰囲気が異なる静かなメロディーは、独自の落ち着きを持ち、日本人の精神性や文化を感じさせます。
世界各国のちょっと変わった国歌にも注目
また、他国には、ちょっと変わった特徴を持つ国歌もあります。
世界各国の国歌の特徴について深堀りをすると、その国の文化や歴史が見えてくるかもしれません。
ギリシャ・キプロスの国歌は55分もある
現在、世界で一番長い国歌はギリシャ・キプロスの『自由への賛歌』です。
異なる国が同じ国歌であることも十分珍しいのですが、この壮大な雰囲気の歌は158節もあり、フルバージョンでは55分の長さがあります。ただし、国歌として指定されているのは24節(約11分)までで、公の場では2節までしか歌われません。
これほどまでに長い理由は、ギリシャの詩人であるディオニシオス・ソロモスがオスマン帝国からの独立戦争に触発されて書いた158節の長い詩に、国歌の歌詞が由来しているためです。
ギリシャ独立戦争の精神を歌っており、1865年に国歌として正式に採用されたこの歌は、歴史と愛国心を色濃く反映する詩的な内容でも注目されています。
南アフリカの国歌には5種類の言語が使用されている
南アフリカの国歌『神よ、アフリカに祝福を』はコサ語、ズールー語、ソト語、アフリカーンス語、英語の5つの異なる言語で歌われています。
過去に争いがあった民族の固有の歌から一節ずつを切り取って繋げた歌ともいわれており、多民族国家である南アフリカの理想が表現されています。
また、国歌の後半には、アパルトヘイト政策を行っていた時代の南アフリカ国歌である『南アフリカの呼び声』が歌われており、黒人と白人の協調の思想が表れているといえるでしょう。
日本国歌は変更可能、世界の国歌も近年変更されている
実は日本の国歌はいつでも変更可能です。
『君が代』は1999年に「国旗及び国歌に関する法律」で正式に日本の国歌として法制化されました。法律内で歌詞や旋律についても明記されていますが、法律を改正すれば、国歌自体はいつでも変更可能です。
日本ではまだ一度も国歌の改定は行われていませんが、海外では状況に応じて国歌を変更するケースが実際にあります。
たとえば、イギリス国歌は2022年のエリザベス女王の死後、王位が息子のチャールズ皇太子に継承されたタイミングで、歌詞の一部が「God Save the Queen」から「God Save the King」に変更されました。
また、カナダの国歌も性的平等の観点から2018年に「in all thy sons command(汝の息子)」の部分を「in all of us command(我らすべて)」に変更すると発表がありました。
文化は時代ごとに移り変わる価値観によっても変化していきます。国歌はその国の文化を表すシンボルなので、時代の移り変わりによって変更される場合があるのです。
まとめ
国歌はその国の文化や歴史を映し出す鏡ともいえます。
自国の国歌であっても、成り立ちや深い意味については、知らない方もいるのではないでしょうか。
国歌を通じて、その国の人々の心に触れることで、異なる文化や歴史への理解も深まります。興味がある国や好きな国がある方は、国歌の成り立ちや歌詞の意味について調べてみるのも面白いかもしれませんね。
参考サイト:
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著者プロフィール
TAKUTO SHIOYA
高校卒業後、音楽の専門学校で作曲・編曲を学ぶ。複数のバンド活動を経て2016年からソロで弾き語り活動を開始。ハイエースで10日間車中泊をしながら中国・四国地方ツアーをおこなったりと、現在も精力的にライブ活動中。大手メディアの Web ライター兼編集者としての顔も持ち、新潟、静岡、神奈川、埼玉、沖縄など移住拠点を定期的に移しながら、日々感じたことを記事にしている。
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