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暮らしてみたい?中国スマートシティの最新事情


密集する木々の上に敷かれた幾何学模様のネットワークの回線とその上に広がる近未来の街に建つ光り輝く高層ビル。

これまでコンセプトとして取り上げられては消えてきた日本の「スマートシティ」構想。ここ数年で高速通信などテクノロジーが構想にようやく追いつき、「デジタル田園都市」や「Society 5.0」などのキーワードを耳にすることも増えました。


「スマートシティ」という言葉を聞いて膨らませるイメージはきっとそれぞれだと思います。「未来都市みたいでワクワクする」という方もおられれば、「無味乾燥な感じがしてあまり好きじゃない」という方もおられるでしょう。そして、中国で進行しているスマートシティには「監視社会」というネガティブな見方をしてしまう方もいらっしゃるかもしれません。


今回はそもそもスマートシティとは何かについて触れ、中国のスマートシティがどのように住民の「ウェルビーイング」を向上させているのかにも注目してみましょう。



スマートシティとは?


テクノロジーを街に実装させた近未来のスマートシティをイメージした街全体と橋や川、ビルなどのミニチュア模型

内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省などが中心になって設立したスマートシティ官民連携プラットフォームによると、スマートシティとは「都市や地域の抱える諸問題の解決とともに新たな価値創出が可能な Society 5.0(仮想空間と現実社会を高度に融合させたシステムで、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会)の先行的な実験の場」と定義されています。


定義だけみると、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指すやや欲張りな構想であることや、主役は IT や AI などのテクノロジーではなくあくまでも「人間」だということが分かります。



日本が目指すスマートシティ施策・Society 5.0の構図

上の図に示されているように、日本におけるスマートシティの中心にあるのはあくまでも「地域の人々」です。地域の人たちが中心になった取り組みから便利なサービスが生まれ、そのサービスを支えるために効率的なマネジメントや、データ連携基盤である「都市 OS」が整備されていきます。そして、その整備に必要な戦略やアセットを充実させていくのが「スマートシティ」なのです。さらに「スマートシティ」の取り組みが1つの地域だけにとどまらず、全国に広がっていくことで、政府が目指す「Society 5.0」が実現する、というのが内閣府が描くヴィジョンのようです。



中国のスマートシティとは?


大都市の川を囲む高層ビルや、オレンジにライトアップされ、川を渡る橋と直結している中国の伝統的な形のお城、中国のスマートシティをイメージした大都市の画像

さて、中国ではスマートシティは「智慧城市(Zhìhuì chéngshì)」といいますが、百度で検索してみると、日本の場合と同じような定義が載せられています。強調されているのは、やはり目的が単に効率化を進めるだけでなく、環境問題を解決し、地域の人たちの生活の質を向上させるという点です。


また、定義の中で繰り返し触れられているのが「城市病(Chéngshì bìng)」の解決です。漢字から想像できるように「城市病」とは都市の人口が集中することによって引き起こされる交通渋滞、大気汚染、水不足、物流の混乱や住宅不足などの問題を指します。なんと中国には人口700万以上の都市が10都市以上、1,000万以上の都市も6都市あるといわれています。


中国では主に国家主導でスマートシティ化が進められていますが、現状では合計90都市で実験的な取り組みが行われているとのことで、北京や上海、深圳や南京などの大都市のみならず、中小規模の都市も含まれているのが特徴です。


「監視社会」と結び付けられがちな中国のスマートシティですが、都市化に伴う解決すべき問題が日本に比べて山積みであることもあり、自ずから都市インフラなどを管理する方向に進んでいることが分かります。



中国スマートシティ化に欠かせない「七大インフラ」とは?


中国スマートシティ化に必須の七代インフラを表した図

上の図は2020年から国家戦略として力を入れられている「新型基础建设(Xīnxíng jīchǔ jiànshè)」、つまり「新型インフラ」であり、その中には「5 G」「超高圧送電線」「都市間高速道路、都市鉄道交通」「AI」「データセンター」「工業用 IoT」「新エネルギー車充電設備」が含まれています。そして、それらの新型インフラの上にスマート医療や住宅コミュニティ、ファクトリーオートメーション、スマート物流などのアプリケーションが実装され、その運用を可能にしているのがスマホやセンサーなどのデバイスや機器から取得される膨大なデータです。



スマートシティ化で「最貧困」が「最先端」へ


中国のネオン街を行き交う人々と、街に装備された近未来のロボット。中国のスマートシティ化をイメージした画像

中国の内陸部にある貴州省は山地や丘陵が多い地形的な要因や、さまざまな少数民族が居住しているため統一的な経済施策の推進が難しいこともあり、「中国でもっとも貧しい省」といわれてきました。実際、2015年の貴州省の貧困層の人口は493万人で中国の省で最多だったそうです。しかし、そんな貴州省の省都である貴陽はスマートシティ化で最先端の都市へと変化しました。


例えば、「貴州スマート駐車」アプリを開けば、貴陽市内の駐車場のどこに空きがあるかをすに検索してくれますし、2020年には「顔面スワイプ」システムが正式に稼働し、地下鉄や BRT(バス高速輸送システム)を利用するときは、顔認証で「スワイプ」してくれるため、乗り降りにチケットどころかタッチ決済すら必要ありません。また、オンラインプラットフォームである「クラウド貴州」を活用することで、すべての行政サービスはオンラインで処理が可能です。


また、中国の社会問題のひとつに生活保護などの国からの支援金の不正受給がありますが、貴州政府が実証実験している「貧困改善プログラム」では、住民の医療情報、人間関係、購買履歴、不動産情報などあらゆるデータを個人に紐づけすることで、生活水準や教育レベルが可視化できるようになったといいます。また、「地方創生プログラム」では、流通データなどから農作物の需給予測を行い、各農家と共有・連携することで必要なものを必要なだけ育て、各農家がきちんと収入を確保できるようなシステムを目指しているとのことです。



まとめ

貴州の事例を日本におけるスマートシティ推進の文脈でとらえて「監視社会」と一刀両断する前に、データ収集・活用が住民たちの貧困や教育格差を少なからず解決していることに注目する必要があるでしょう。大切なことは日本にしろ、中国にしろ、地域のスマートシティに対して理解の解像度を上げることなのかもしれません。



参考文献:




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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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