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執筆者の写真SIJIHIVE Team

「踊る手話」フラの魅力と手話通訳の世界

ALOHA!ハワイをこよなく愛する翻訳者兼フラ講師の板羽柚佳です。

フラを教え始めて、今年で17年目となります。フラダンスの先生をしていますと自己紹介すると、両手を「ひらひら」させながら、「こんな感じで踊るやつですよね?」と言うコメントをよくいただきます。その時の私の返答は決まって「そうそう!その手の動き、実は単なる「ひらひら」ではないんですよ。実は手話なんです。」というものです。


じっくりとその手の動きを見ていただくと、波の動きやヤシの木の動き、風の動きや誰かを抱きしめる動き、山や入り江、家を表現する屋根の形など、さまざまな様子が手で表現されていることがわかります。そう、実はフラは単なる舞踊ではなく、古代ハワイアンが自分自身の思いや出来事、神々のことや自分を取り囲む自然の様子、島や家族の歴史など伝えるために用いていた伝承ツール、つまり「手話」なのです。


フラは踊りでありながら「言語」でもあります。そこで今回は、翻訳者という「言語」を取り扱う仕事をしている筆者の目線から、かつて言語であったフラの魅力とまさしくこの地球上に存在する言語のひとつである手話について、今後に期待することなども踏まえつつ、深掘りしていきたいと思います。


ビーチで海を背景に、茶色の衣装を着てフラを踊るハワイの女性ダンサー


目次






  1. フラの起源とその文化的背景

海や山、ヤシの木の背景のステージでフラダンスを披露する、花やラフィアでできた衣装を着た女性のフラダンサー3人

まずは、知っているようで実はよくわからない(?)フラについて詳しく見ていきます。

ハワイ先住民(古代ハワイアン)が生み出した伝承文化の一つ、フラ。それは彼らの精神と文化、そして自然観を反映した伝統的な表現方法です。文字による伝達方法を持たない彼らは、代わりに舞踊や詩、歌を通じて歴史や伝承を伝えてきました。その中でもフラは、神話や物語、そして土地への愛や自然崇拝を表現する主要な手段として特に重要視されてきました。


フラの動きや踊りには、海の波や風、火山の噴火、山の神秘など自然現象が象徴的に描かれており、神々や祖先のスピリットとつながるための手段ともされてきました。「フラ・カヒコ(古典フラ)」と「フラ・アウアナ(現代フラ)」と、フラには2つのスタイルがあります。フラ・カヒコは、伝統的な詩やチャント(詠唱)を伴い、歴史的な衣装や道具が使われ、神聖な儀式や宗教的な意味を含むことが多いです。

対して、フラ・アウアナは19世紀以降、西洋文化の影響を受けて発展したスタイルで、現代の音楽とともに踊られ、よりエンターテイメント性が高いとされています。どちらのスタイルもハワイの人々の心と自然に対する深い敬意を表しており、フラは単なる踊り以上に「ハワイアンアイデンティティの象徴」として大切にされています。



  1. フラと手話の共通点:ジェスチャーでの物語の表現

ボートから海に向かってシャカのハンドサインをする男性の腕

フラは、手や体を用いて自然や感情、物語を表現するという点で、手話とその性質が非常に似ています。手の動きやジェスチャーが重要な役割を果たし、花や海、山といった自然の要素や、愛、喜びといった感情を表します。これにより、観客は言葉を使わずともその動きを通して物語やメッセージを理解することができます。手話もまた、言葉ではなく手の形や動き、表情を駆使してコミュニケーションを行うものであり、話すことの代替としての役割を持ちます。


例えば、米国手話では、「愛」=「Aloha」を表現する際に両手を胸の前で交差させますが、フラのハンドモーションもほぼ同じ形態です。日本手話ではハワイでシャカと呼ばれるハンドサインと同じ形で表現します。両者は異なる文化的背景を持ちながらも、同じようなジェスチャーで感情やメッセージを伝えているのがとても興味深い点です。


また、フラは言語としての要素も持っています。そのジェスチャーの種類も膨大な数があるわけではなく、非常にわかりやすい表現のため、初めて見る人でも何度か見ているうちにだんだんと理解できるようになってきます。この点において、まさに手話と同様の「視覚言語」と言えるかもしれません。視覚言語は、音声言語とは異なる方法でメッセージを伝えるため、視覚や空間を活用するスキルが重要です。フラのダンサーたちも、空間や視線(目配せなど)を利用して、物語やメッセージの意味を豊かに伝えています。







  1. 手話通訳士の現状

黒の背景にそれぞれ別々の手話のジェスチャーをする3人の男女の手

日本の手話通訳士は、聴覚障がい者と健聴者の間でコミュニケーションの橋渡しをする専門職です。彼らは、公共機関や医療現場、教育機関、法廷などさまざまな場面で通訳を行い、聴覚障がい者がスムーズに社会参加できるようサポートしています。

日本では、手話通訳士の資格は「手話通訳技能認定試験」によって取得できますが、合格するには高い技術と専門知識が求められます。この試験には筆記と実技の両方があり、特に実技では日常会話から専門用語の解釈まで幅広いスキルが試されます。


日本国内の聴覚障がい者30万人に対し、手話通訳士は全国に約4,000人。かなり不足しているのが現状です。特に、手話通訳士の需要が高まる一方で、労働環境の整備が追いついていないため、職業として安定的に従事できる人は限られています。また、ボランティア活動の一環という見方も多く、報酬は口頭通訳者のものと比べるとその1/3から1/4程度と言われています。それにも関わらず、医療や法律分野では高度な専門用語が多いため、専門的な知識を持つ通訳士の育成も求められています。


そういった需要から、今後、手話通訳士の活動をさらに広げ、その存在価値への認識をより高めることで、彼らの労働環境の整備や報酬の安定につなげていくことが今求められています。日本社会における心のバリアフリー化や、聴覚障がい者の方々がより快適に暮らせる社会の実現に期待が高まります。


ハワイにおいても、フラがハワイの観光資源として世界中に発信される中で、日本でも一部のイベントで、手話通訳士であるフラ講師とその生徒さんたちによるパフォーマンスなども披露されており、異文化間の理解を深める試みとして注目されています。フラのパフォーマンスに手話通訳士が加わることで、健聴者だけでなく聴覚障がい者も同じようにフラを楽しむことができます。全ての観客が一体となってその場を共有できると、フラの魅力や可能性がますます広がると感じます。



  1. フラと手話が示す新たな可能性

屋外でオレンジ色のニットを着て手話のジェスチャーをする女性

フラと手話の共通性は、多様な文化や表現方法の交わりによって新たな可能性を生み出せるということを示しています。フラの学びは、ハワイの歴史や自然観、スピリチュアルな価値観を理解する機会となり、一方で手話を学ぶことで、異なる視覚言語文化に触れることができます。両者を融合させたパフォーマンスやイベントは、異なる文化を持つ人々同士が共感し合い、新しい価値観や視点を共有する場となり得るのです。


また、ハワイ先住民の文化をリスペクトしつつ、その要素を多様な社会で受け入れられる形で発信していくことは、伝統文化の継承と現代社会の多様性の尊重を両立させる方法とも言えるでしょう。特にグローバル化が進む現代では、多文化共生が重要なテーマであり、フラのような文化を他文化と融合させることで新たな形で発展させる取り組みも期待できそうです。



  1. まとめ

フラの伝統的な衣装を身につステージでパフォーマンスをする女性フラダンサーのグルーブ

フラは、手話と同様、視覚的な表現を通じてメッセージを伝える特別な文化。

フラが持つハンドモーション(ジェスチャー)の表現の豊かさは、単なる踊りではなく、ハワイの伝統と自然観、そして人々の心を表す情緒性の非常に高いもにであり、手話と同様、視覚言語としての役割をも果たしています。


これまでに、手話通訳士さんや視覚障がいを持つ人たちが手話で会話する様子を何度か目にしたことがありますが、みなさん顔の表情が豊かで、「目でものを言う」とはこういうことだと感じました。手話がわからない者にもその空気感は大いに伝わってきます。


フラと手話はともに視覚を通じて感情やメッセージを共有する方法であり、どちらも異文化理解や多様性の促進において大きな役割を果たすことができると感じています。その共通性を活かした文化交流や教育が進むことで、私たちは異なる文化や価値観をより深く理解し、共感し合える社会を築くことができると感じています。


参考サイト



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著者プロフィール


YUKA ITAHA


テレビラジオ業界でナレーターとして25年、フラ教室主宰15年とエンタメ業界一筋で生きてきたが、コロナ禍をきっかけに長年の夢だった翻訳業務を開始。

ハワイへは年に数回渡航。日々変化していく生きた英語に触れながら、

異文化間の思考の違いや取り組み方の違いを肌で感じ、

その違いを相互理解しながら埋めていくための一助となるべく、目下、邁進中。

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