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実は深い翻訳業界㉘~納品前にここだけ!見直しのポイントを徹底解説


黄色のバックグラウンドとパソコンを使っているお洋服を着た擬人化された犬

業界の裏話をお届けする「実は深い翻訳業界」シリーズも気付けばもう28回目となりました。

このシリーズではこれまで、質の高い仕事を続けていくのに欠かせないポイントをいくつか取り上げ、 IT ツールを使いこなせるスキルやリサーチ力、レスポンスのスピードなどについて解説してきました。


しかし、どれだけスキルが高くても、翻訳者の人格が優れていても、最終的にはクライアントのもとに届く納品物ですべてが決まります。言い換えると、翻訳業界に限ったことではありませんが、結局のところ仕事の質はプロセスよりも結果で評価されるのです。


そう考えると、納品前の見直しによってクオリティを担保することがどれだけ重要かが分かります。パーフェクトな人間は存在しないため、完璧な納品物も存在しません。ヒューマンエラーを100%なくすことは不可能ですが、できる限り精度の高い翻訳に仕上げるために翻訳会社は努力を続ける必要があるのも事実です。


今回は弊社の例も挙げながら、納品前にこだわりたい見直しのポイントを徹底解説します。


機械によるQAチェック


タイプライターから出てきているReviewと書いてあるタイピング途中のペーパー

一般的に、納品前の見直しには、機械によるチェックと人の手によるチェックが含まれます。現在、多くの CAT ツールには、QA(Quality Assuarance =品質保証)チェック機能が含まれています。それにより、目視ではなかなか見つけにくいエラーを発見できますし、膨大な作業量を軽減してくれます。


QA ツールは原文と訳文を比較して、以下のような項目に関してエラーがないかをチェックします。

  • 原文に該当する訳文が存在しない

  • 同一の原文なのに訳文の訳し方に差異がある

(例) 原文: The Labrador Retriever is the dog of the day.

訳文①:今日の犬はラブラドールです。

訳文②:本日のイヌはラブラドールです。


  • 原文と訳文に著しい差異がある(著しく長い、短いなど)

  • 原文と訳文で使用されている数字が一致しない、あるいはどちらかに存在しない

  • ツールに読み込ませている用語集と訳文に差異がある

  • 数字、引用符、カッコ、句点、文末記号、タグが一致しない

(例)

原文: The Labrador Retriever is the dog of the day.

訳文:今日のイヌはラブラドールです(原文のピリオドに対応する句点が訳文にない)


以下で実際の QA ツールの画面もいくつか見てみましょう。


Phrase(旧 Memsource)


例えば、人気の CAT ツールの一つである Phrase(旧 Memsource)の QA チェック項目は以下の通りです。


CATツール、PhraseのQAチェックの項目リスト

多数ある項目の中から必要なものを選択して、チェックを実行します。Phrase で QA を実行すると、次のような画面が表示されます。


CATツール、PhraseでQAチェックを実行すると表示される画面

Smartcat


ちなみに別の CAT ツールである Smartcat では、各セグメントの横に次のようにエラーが表示されます。


CATツール、SmartcatでQAを実行すると出てくるエラー表示

ApSIC Xbench


別のツールとして、Xbench があります。幅広い形式のファイルに対応しており、チェック項目も多様な点が特徴です。購入したら Trados などのツールにアドオンとして追加して使用します。


有料版に加え、無料版もありますので、気になる方はまず使い勝手を試してみるのも良いかもしれません。QA チェックに特化したツールのため、翻訳者にとっては心強い味方だといえるでしょう。ただ、主にヨーロッパ言語向けに開発されているため、中国語などアジアの言語の翻訳をする場合、やや使いづらく感じるかもしれません。


「False Positive」とは?


QA ツールでチェックを実行すると、「False Positive」と表示されることが多くあります。

「False Positive」は、医療分野では検査などで実際は陰性の患者の検体を誤って陽性と判定することを指しますが、QA チェックでも、実際は正常であるにも関わらずエラーと検知してしまうことを指します。


もし、納品物の品質を高めたければ、チェック項目を増やして QA チェックの基準を厳格にすれば良いのですが、その分「False Positive」の数も増えます。それを最終的にチェックするのは結局人間のため、作業量が増えてしまいます。しかし、逆にチェック項目を減らせば、作業量は減らせますが、エラーの見落としのリスクが高まります。翻訳の仕事は常に品質の維持とコストのバランスの上に成り立っているのです。


やはり最後は目視によるチェックが必要


ストライプのジャケットとブルーのサングラスを着用している男性が虫眼鏡を通してこちらを覗いている

QA チェックツールは有用ですが、これだけで品質が確実に保証される訳ではありません。前述したように「False Positive」を人間の目で確認する必要がありますし、納品物のジャンルによっては文脈を考慮に入れながら目視することが欠かせない場合もあります。


そのため、多くの翻訳会社では自社オリジナルのチェックリストを作成しています。弊社も作成しており、上述したような QA ツールが一般的にチェックする項目に加え、デザイン関連の項目も確認します。例えば、原文の文字色や文字スタイル、下線などが訳文にもきちんと反映されているか、などです。また、Web サイト関連の確認事項として、オリジナル版と翻訳版のデザインやレイアウトの一致、各ページ上のリンクがきちんと翻訳されているか(翻訳版のページを作成する場合)、スマホ表示に問題がないか、などのチェックも徹底します。


まとめ: QA ツールを賢く使いこなそう


QA ツールは大量のファイルから機械的にエラーを見つけ出せるため、数字や記号、句読点などの不一致をチェックするのに優れています。また、複数の翻訳者が共同で作業した場合、訳出の揺れを発見する点でも便利です。しかし、当然ながら「万能」のツールではありません。


「実は深い翻訳業界㉔~機械翻訳との付き合い方」でも触れましたが、「機械」には強みもあれば限界もあります。結局は QA ツールという先進的な技術と、経験を積んだ翻訳者やレビュアーによる職人技を融合させることが、完璧とはいわないまでも、クライアントにお渡しする納品物を最高品質に近づける唯一の方法なのかもしれません。



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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI

2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。


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