新型コロナウイルスの流行が始まりすでにひと月以上が経過しました。日本国内でも感染を軽視できない状況になるにつれて、旅行や出張予定のキャンセルに奔走されている方も多いのではないでしょうか。
弊社でも来月予定していた出張はキャンセル手配中で、6 月の中国渡航予定も同じ運命を辿るのでは…と感じています。
さて先日、このウィルスが世界保健機関(WHO)により「COVID‐19」と命名されました。今回の記事では、その命名の経緯と背景を言語的な観点も踏まえて振り返ってみたいと思います。
COVID-19とは?
2 月 11 日、WHO のテドロス事務局長は、新型コロナウィルス肺炎の正式名称を「COVID-19(coronavirus disease 2019)」としたことを発表しました。CO とは「コロナ(Corona)」、VI は「ウイルス(Virus)」、D は「疾病(Disease)」、19 は「病気が見つかった年である 2019 年」を意味しています。
しかし、ウイルスや病気の命名がいつもこのようになされるというわけではありません。皆さんもきっとエボラ出血熱(Ebola virus)や中東呼吸器症候群(MERS)、マールブルク病(Marburg virus)、日本脳炎(Japanese encephalitis)、ドイツ麻疹といった名前は聞き覚えがあるかと思います。
たとえば上記の例では、その病気と特定の地名との関係性をすぐに伺い知ることができます。
エボラ出血熱:アフリカのエボラ川地区で発見。
中東呼吸器症候群:中東地区(Middle East)で発見。
マールブルク病:最初ドイツのマールブルク(Marburg)で発見。1967 年、西ドイツのマールブルク、フランクフルト、ユーゴスラビアのベオグラードの複数の実験室で働いていた職員のうち 31 人が発症し、7 名が死亡。
しかし、この命名方法は人々の心理にネガティブな作用をもたらす可能性があり、偏見をあおったり、特定の民族に対する差別を生むことにもなりかねません。そこで、WHO は 2015 年に「新たに発見された疾病の命名に関するガイドライン」を発表。特定の人物や場所、動物や食物、職業の替わりに、中性的で一般的な呼び名を使うようになりました。
2003 年に SARS が中国を襲った時、中国人の感情を害することのないように「中国インフルエンザ」ではなく「SARS」と命名したのもそのためです。同様に、今回の新型コロナウィルス感染症についても、原因となったウィルス名は「中国ウイルス」ではなく、一時的に「2019-nCoV」と表記されていました(*1)。このような経緯があり、このウイルスによって引き起こされる肺炎も「2019 コロナウイルス(COVID-19)」とされたという訳です。
混乱しやすい用語を理解する
中国を中心に新型コロナウイルスが大流行して以来、国内外のメディアがこぞって関連ニュースを報道しています。しかし、報道の中で意味が似たような用語が複数使われているため、混乱している方も多いかもしれません。
Endemic | Epidemic | Pandemic
この 3 つの語は非常に近いのですが、重きを置いているポイントが異なります。
まず,風土病(Endemic)と伝染病(Epidemic)ですが、まず綴りが似ているゆえに違いが実に分かりにくい単語だといえます。
この 2 つの語の共通点は、deme(生態学上の同類群)に由来する -demic という語根であり、特定の個体群を指すのに用いられます。
接頭語の「En」は「in」(~の中に)の変形であり、「ある特定の場所に限る」という意味で、「限られた、制限された」という点に重きが置かれています。
それに対して接頭語「Epi」は「among/around」(~の間)という意味であり、「~の間で広がっている」という意味があり、「伝染」という部分に重きが置かれます。
もし、この 2 つの接頭語の違いについてきちんと理解することができれば、「風土病」と「伝染病」の見分けも少しは楽になるはずです。
例えば、「マラリア」は一種の風土病であり、蚊によって媒介される特定の地域に限られた病気で、発展途上国の人々にとって深刻な健康上の問題となっています。また、天然痘(Smallpox)は天然痘ウイルスによって引き起こされる急性伝染病であり、感染したエアロゾルや症状を発症した感染者の飛沫を介して人から人へと伝染します。
さて、epidemic と意味は近いものの、見分けが難しいのがパンデミック(Pandemic)です。接頭語の pan には「all-inclusive」、つまり「すべてを包含する」という意味が含まれています。名前が示すように、pandemic とはすべての国家にまたがる、あるいは世界的な流行病を指し、流行する範囲が幅広いことがポイントとなります。
これらの接頭語をマスターしておけば、他の用語にも応用できますね!
Infectious | Contagious
この 2 つの語は同義語として互いに置き換えられて用いられますが、実は決して同じではなく、微妙な違いがあります。
Infectious は環境を通じて感染する病気のことであり、この語はもともと infection という古語から来ています。基本的な意味としては「poison(中毒)」あるいは「contagion(蔓延)」といった意味を含んでいます。
Infectious は細菌やウイルスを経由して引き起こされるため、あっという間に広がりやすく、「細菌もしくはウイルス」によって感染した「伝染性の」と訳出できます。
Contagious は人から人、あるいは動物から人から直接身体的な接触によって伝染する病気のことです。これには患者が直接触れた物品に触ることも含まれます。よってこの語は感染原因が直接接触にある病気を指し、「具体的接触による感染の」と訳出できるでしょう。
つまり、伝染病は細菌かウイルスを媒介として起こるものですが、すべての「伝染病(infectious disease)」が「接触伝染病(contagious disease)」ではないということです。
例えば、食中毒(Food poisoning)は細菌により感染するため「infectious disease」ですが「contagious disease」ではありません。一般的に、食中毒の人に接触することにより、(極端に言えば、食中毒者とキスするなど…)自分も食中毒になるということはあり得ないからです。
Incubation period | Latency period
こちらの 2 つはいずれも「潜伏期」という意味を持つため容易に混乱を招いてしまいますが、これらの語の定義を理解しておけば比較的簡単に区別できます。
Incubation period :感染から病気の発症までの期間。「無症状の潜伏期」のことを指します。
Latency period:感染してから、感染者が感染性をもつようになるまでの期間。「感染性のない潜伏期」のことを指します。
この 2 つの潜伏期の長さは特定することが難しく、感染症や感染者によって違いが生まれます。いずれにしても、感染症をさけるため、感染者を隔離(quarantine)することが必要ですが、この隔離期間のことは英語で「quarantine period」と言います。
いかがでしたか?
弊社取引先の中国企業では、政府の通告により出社できず在宅勤務を余儀なくされているとのことでした。また、マーケティング関連で「コロナウィルスによる検索ワードの対策をしたい」というキーワードサーチの依頼もあったりと、ビジネスレベルでも大きな影響が出ていると感じています。
日本では「毎年のインフルエンザのようなものだろう」と軽く考えていた人も多いようですが、今回の一件は本当に世界を揺るがす社会現象への道を辿っているといえます。そんな時だからこそ、病気についての正しい情報を得ること、一人ひとりによる安全対策が必要という意識を持つことが大切です。
(そろそろ国外に出たいので、本当にはやく収束してほしいですね!)
*1:新型コロナウイルス感染症の原因ウイルス名は一時的に「2019-nCoV」という表記が使用されていましたが、国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV)において正式に「SARS-CoV-2」と命名(OIPH)
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