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執筆者の写真SIJIHIVE Team

中国のお茶はなぜ甘い?文化と味覚の不思議


中国の店内に並ぶボトルに入った黄色や緑色のお茶と様々な商品

中国に旅行し、ペットボトルのお茶を購入して飲んだことがある方ならご存じかと思いますが、多くの商品が「加糖」です。そのため、中国語をあまり読めず「茶」という文字だけを頼りに購入し、飲み物を口にしたら「なんじゃ、こりゃ!?」と感じたはずです。


日本でペットボトルの日本茶やウーロン茶、ジャスミン茶といえばほぼ無糖、紅茶やミルクティーにも低糖や無糖の商品が多くあります。そして、中国といえば、ジャスミン茶やウーロン茶の本場です。にもかかわらず、砂糖を入れた商品がなぜ多くの消費者に受け入れられるのでしょうか?この問題を深掘りしていくと、日本と中国のマーケティング手法の違いが見えてきます。



日本人が好きなのは「引き算」


壁に描かれた理想の絵画を眺めながら机に座り頭を悩ます人と、周りに散らばる紙

日本人が自己評価や人事評価をする際に「減点主義」志向である点はよく指摘されます。つまり、完璧をイメージし、そこから足りない点や不満な点を引き算していくのです。


例えば、ビジネスパーソンなら、プレゼンの資料はデザインまで工夫を凝らし、パワポのアニメーションまでばっちり準備します。また、お母さんたちは、子どものために時間をかけて細部にまで作り込まれたキャラ弁を作ります。このように、何をするにしても常に100点満点を目指してしまうのがわたしたち日本人です。


当然、毎回満足できるプレゼンやお弁当が実現できるわけではありませんから、自分を褒めるよりも反省ばかりする機会が多くなってしまいます。そして、自分に厳しい分、他人を評価するときにもついついできていないところに目がいってしまい、厳しめに見てしまうのが悲しいかな、日本人の傾向ではないでしょうか?


本当はプレゼンは製品紹介が目的ですし、お弁当は栄養のある食事を子どもに食べさせてあげたらよいはずなのですが、私たちはそれだけでは満足できません。


そして、この日本人の思考パターンは消費者の傾向にも表れ、飲料水にもより「高品質」を求めてしまいます。例えペットボトルだとしても、高級な茶葉を使った商品や、香りや味わいの深いもの、体に良いものが「ウケる」のが日本のマーケットなのです。そして、その流れからすれば、砂糖がお茶だけでなく、さまざまな飲料水から「引き算」されていくのはごく自然なことに思えます。


中国人が好きなのは「足し算」


中国の店内で、ワゴンに積まれたたくさんの商品を眺めて選ぶグリーンのTシャツを着てリュックを背負う女性

他方、中国では合理的な思考が好まれます。すべてのモノは何らかの役割や機能を果たすことが期待されており、それを超えた過剰な性能やデザインは求められません。というのも、性能やデザインを追求し過ぎるとどうしてもコストがかかるからです。中国では、必要性が高くない機能やクオリティを追求した「1個」の商品を高いお金を出して買うよりも、そこそこの商品を「2個」買いたいという消費者が多いように思います。


中国のスーパーマーケットなどでよく見かける「买一送一(Mǎi yī sòng yī)」=「1個買ったら、もう1個プレゼント」というポップはまさにそうした消費者意識を反映しています。「1個よりも2個、2個よりも3個」という「足し算」が好きなのが中国でのマーケティング手法です。



甘いお茶も「足し算」


駅に停まっている電車と、線路外の台に置かれた水が入った水筒

ところで、中国で生活していると欠かせないグッズの一つに「マイ水筒」があります。プラスチックのものから、保温性の高いものまでグレードはさまざまですが、老若男女、だれでも何の仕事をしていても、ほとんどの人が「マイ水筒」を持っています。


そして、中国では、職場でも学校でも、駅でも、列車の中でも、ほとんど至るところにお湯を汲める場所があります。そこでだれもが自分の水筒に「タダで」お湯をつぎ足すことができるのです。お湯をそのまま飲む人もいますが、多くの人が一つまみの茶葉を入れています。お茶を飲み干しても、「タダで」手に入るお湯を足しさえすれば、お茶も「タダで」飲めるというわけです。


さて、あなたが「タダで」お茶を毎日飲んでいる中国の消費者(厳密にいえば茶葉は自分で購入していますが)に、お茶をペットボトルに詰めて売ろうと思ったら、どうするでしょうか?


「このお茶の葉は高級で、健康にも良いですよ」と「引き算マーケティング」で攻めるのは日本人には効果的ですが、中国では「ペットボトルのお茶にそこまで求めていない」といわれるのが関の山でしょう。


誤解のないように述べておくと、中国の至るところでは茶葉を専門的に扱っているお店があり、目の飛び出るような高価なお茶の葉が取引されています。しかし、こうした茶葉はペットボトルに詰めて飲むのではなく、客人をもてなし、会話を楽しみながら嗜むものと考えられています。


では、ペットボトルで手軽に楽しめるお茶を「買いたい」気持ちにさせるにはどうしたら良いでしょうか?そうです、そのためには「足し算マーケティング」しかありません。お茶に「砂糖」を文字通り「プラス」することで、付加価値を高めるのです。


こうして、日常的に飲んでいる「タダ」のお茶とも、客人をもてなすために用いる高級茶葉とも異なる、別次元の飲み物である「甘いお茶」が誕生したのです。



変わる「足し算」マーケティング?


中国のショッピングモールの店内に並ぶお店と、天井に飾られた赤い提灯の装飾と商品を物色する客

もっとも、これまで主流だった「足し算」マーケティングも変わりつつあります。特に都市部の若者たちを中心に日本の「無印良品」が爆発的な人気を誇るなど、ここ数年シンプルなデザインが受け入れられてきました。中国でも「引き算」マーケティングが伸長している表れともいえるでしょう。同様に、お茶の分野でも健康志向も手伝って、低糖や無糖の商品の売れ行きが伸びているようです。


ただ、近年無印良品は中国では苦戦しているとのニュースもあります。主な原因は「名創優品(メイソウ)」の台頭で、中国の消費者には「5分の1の価格で無印のような商品が手に入る」と認識されているとのことです。やはり、同じ金額のお金が手元にあるなら、高品質なものを1つよりも、「そこそこ」のものを2つ買いたいのが中国のマーケットなんだな、と考えさせられます。


これからは中国のマーケットからも甘いお茶が少しずつ減っていくかもしれません。でも、中国の消費者の心をつかむには、日本の「引き算マーケティング」だけではなく、さらなる工夫が必要になりそうです。


参考サイト:

人気絶大も業績は低迷 中国で「無印良品」が苦戦する理由|ダイヤモンド・オンライン




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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。


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