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中国成語探訪③~ソーシャルディスタンス時代の新成語

今回のコロナウイルスは中国が起源だと言われていますが、この国は記憶に新しいものだけでも SARS、鳥インフルエンザなど、また少しさかのぼれば 1950 年代のアジアインフルエンザ、さらにもっと長いスパンでみれば、西暦 22 年から 1877 年まで 20 回以上の疫病の大流行を経験しています。まさに中国は疫病と共に生きてきた国と言っても過言ではないでしょう。

中国は疫病以外にも自然災害や戦乱など多くの苦難を経験してきましたが、それらを乗り越える上で中国人を勇気づけ、思想的な支えとなってきたのが成語に込められた知恵です。今回は、コロナ時代に住むわたしたちにも力を与えてくれる成語、そしてこのコロナ時代にネット上で登場した成語のいくつかを取り上げてみましょう。


始皇帝さん、三密は禁止です!



・闭门自守(Bì mén zì shǒu


日本人であれば、この成語の意味は漢字から容易に推察できることでしょう。意味は「外に一歩も出ずに、自分の身を守ること」です。コロナウイルスから身を守るためにわたしたち一人ひとりがまさに行っている「stay at home」です。あるいは各国政府がとった「ロックダウン」「都市封鎖」もこの成語が伝える考えと調和します。


これに似た成語に「闭门造车(Bìménzàochē)」があります。漢字から見ると「外に出ずに車を造ること」ということですが、これにはどういう意味があるのでしょうか?


ご存じのように、古代中国においての車とは馬に引かせる馬車でしたが、それを造るには外の道の轍(わだち)の幅と適合していなければなりませんでした。そうした外の実際の様子も観察せずに、中に閉じこもって車を造っても実際には使えなくなる可能性が高いでしょう。


つまり、この成語は「現実を考慮せずに、自分の思い込みだけで物事を行うこと」という意味を伝えています。日本語の「机上の空論」に近いかもしれません。わたしたちは不要不急の外出は控えたいですが、家にいてネットや SNS のチェックばかりに時間を使っていると、フェイクニュースに惑わされ、事実に即した考え方や決定ができなくなる可能性もあるので気を付けたいものです。

ちなみに、このコロナ禍で「闭门造车(Bìménzàochē)」にはネット上で新しい解釈が加えられました。新定義は文字通り、この時期に増えた「家の中に閉じこもって自分のバイクをいじって改造したり、ネットで買い物ばかりをする」人のこと。漢字ならではの意味の広がりを感じますね。



・以毒攻毒(Yǐdúgōngdú


「毒を以て毒を制する」。この成語は日本語のことわざにもあります。一般的に「ライバルが非情な手で攻撃するなら、こちらも同じ手を用いて復讐する」ような意味として捉えられています。しかし、ビジネスにおいて「相手が違法な手段を用いるなら、こちらも違法な手で」というのは決して懸命とは言えないでしょう。


考えてみると、一口に「毒」と言ってもいろいろあります。例えば、アルコールは飲みすぎると「毒」ですが、たしなむ程度であれば、心身ともにリラックスさせてくれるものです。

また、薬はいかがでしょうか?爆薬に使われるニトログリセリンは狭心症の治療薬でもありますし、かつて薬害問題になったサリドマイドはもともとは多発性骨髄腫の治療薬です。漢方で使われる薬草も適切な量を配合すれば薬ですが、大量に服用すれば人の命を奪ってしまいます。極端な話をすれば、私たちの生命にとって欠かせない水も、用いられる場所と量によってはモノを錆びさせたり、有害な化学反応を引き起こす原因にもなります。


いま、人類はいわばコロナウイルスという「毒」と戦っています。熾烈なワクチン開発競争が製薬会社によって繰り広げられていますが、そもそもワクチンという発想自体が「毒をもって毒を制する」戦略なのではないでしょうか。

コロナウイルスによって引き起こされている経済難をはじめとする未曾有の事態も毒と呼ぶならば、それに立ち向かうためにはいままでと同じ常識は通じないと言えるのかもしれません。もちろん違法な手段を講じるべきではありませんが、柔軟な発想や視点で解決する、つまり「毒を以て制する」ことが求められているように思われます。難病を治すには強力な薬、つまり「毒」が必要なのです。


ちなみにこの「毒」と「独」は中国ではどちらも「」と読みますが、「以毒攻毒」を「以独攻毒」に変えた新しい成語が WEB 上で誕生しています。どういう意味かはもうお分かりですね?

「独」を以てコロナウイルスという「毒」を制する、つまり、出勤などの際は公共の交通機関を利用せずに自転車やバイクで「独り」で通勤することにより、ウイルス感染のリスクを減らす、ということです。



・小心翼翼(Xiǎoxīnyìyì


「小心」は日本語では「小心者」という言葉が示すように「臆病」というネガティブな意味で使われますが、中国語では「注意深い、慎重な」というポジティブな意味で使われます。この成語の後半部分の「翼翼」も「人々に心を配り、慎み深い」という意味を含んでいます。コロナに関して様々な情報が飛び交うなか、臆病になる必要はありませんが、情報を注意深く選別し、外出に関しても慎重な姿勢を貫けば自分と家族の命を守ることができます。


ちなみにこの成語の「翼翼」もコロナ禍では同じ発音の「疫疫(yìyì)」に置き換えられ、「コロナウイルスの感染リスクを減らすために注意深く行動する」という意味で用いられているようです。


以上、コロナ時代を生き抜くために役立ちそうな成語 4 つと、それをアレンジしたコロナ禍の新しい成語 3 つをご紹介しました。成語は煮詰まった頭にインスピレーションを与えてくれる知恵の宝庫です。いくつかを発音とともに覚えておけば、この時代の語学の支えとなってくれること請け合いです。是非チャレンジしてみてくださいね!


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著者プロフィール

YOSHINARI KAWAI

2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、その後約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。現在はアフリカのガーナ在住、英語と地元の言語トゥイ語と日々格闘中。


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