2024年6月の訪日外客数は3,135,600人で前年同月比で51.2%増、2019年同月比で8.9%増であり、単月としては過去最高を記録しました。国別でみると韓国がトップで、中国からの訪日客は第2位で約66万人でした。逆に同月の日本人出国者数は930,228人であり、残念なことに日本人の中国旅行者はなかなか増えていないのが現状です。
最大の理由は以前は可能だった15日以内の中国へのビザなし渡航ができなくなったことでしょう。そのため、2024年8月現在、ビジネスを含めて中国に入国する場合にはパスポートに加えて、必ずビザが必要です。
以前に比べて渡航のハードルが上がった中国でビジネスをしたい場合、どんな準備が必要なのでしょうか?この記事では、ビジネスに必要なビザの種類、日本での仕事の探し方から、必要な手続き、渡航する都市ごとの注意点、求められる中国語のレベルなど、さまざまな角度から分析します。
※中国のビザに関する情報は随時変わります。実際に渡航する前には管轄の中国総領事館・中国ビザ申請センターで最新情報をご確認ください。
中国ビジネスの種類と必要なビザ
中国にビジネス目的で渡航する場合、大きく分けて以下の3つのパターンが考えられます。
①中国現地採用 ②日本企業の社員として中国に駐在 ③中国で起業 |
以下、それぞれの場合に必要なビザと具体的な手続きについて解説します。
① 中国現地採用
中国で就労するためには Z ビザが必要です。そのためには「外国籍人材就業証」および「外国人居留許可証」の取得が必要です。それぞれの申請のために準備すべき書類は多く、相当の日数が必要になります。
外国人就労者は「高度人材(A 類)」「専門人材(B 類)」「一般人材(C 類)」に分類され、Z ビザ発行のためにはそれぞれ定められている条件を満たさなければなりません。ひとつずつ満たすべき条件について紹介します。
これを見ただけでも、中国でビジネスをすることが決して簡単ではないことがお分かりいただけると思います。ちなみに「B 類(6)得点が60点以上の人材」というのは何かテストがあるわけではなく、「中国国内における年間給与額」「学歴および資格」「実務経験年数」などの項目からなる得点表の合計点のことを指します。例えば、「中国国内での年間給与が45万元以上」であれば20点、「学士:高級エンジニアまたはそれに相当する資格」をもっていれば10点という感じです。
就業予定者がすべきこととは?
中国で就業を予定している場合、Z ビザの申請を直接または旅行代理店を通じて、中国大使館または領事館にて行います。その際、中国の受け入れ企業が送付する「外国人就業許可通知書」の原本およびコピー、パスポート、写真(3×4cm)、ビザ申請書などを提出しなければなりません。
無事 Z ビザが発給されたら中国入国です。忘れてはならないのは、中国に入国したら、ホテル以外の施設に宿泊する場合、入居開始から24時間以内にパスポートと賃貸借契約書を持って近くの派出所に行き、臨時宿泊登記しなければならないということです(ホテルの場合はチェックインで OK)。その後、健康診断をオンライン予約した指定機関で受けましょう。渡航前に日本で受診していれば大半の検査項目が省略できます。
さて、忘れてはならないのは、日本国内で受け取った Z ビザはあくまでも一次入国用であり、30日後に失効してしまうということ。そのため、健康診断の結果を受け取ったら、速やかに「外国人就業証」と「外国人居留許可証」を取得しなければなりません。その2つが揃ってはじめて中国での就労が可能になります。
② 日本企業の社員として中国に駐在
駐在員として中国に赴任して、就労する場合も Z ビザが必要ですので、現地の勤務先の会社と連携して、①で紹介した流れに沿って手続きを進めましょう。
③ 中国で起業
中国で働くためには前述した「外国人就業証」「外国人居留許可証」の2つが必要なことは変わりません。そのため、中国で起業したい場合は Z ビザの A 類の「イノベーション・創業人材」あるいは「優秀な青年人材(40歳以下)」であれば良いのでは?と思うかもしれません。
しかし、残念ながら、A 類を取得するために求められる基準はあまりにもハイレベルすぎます。すでに自らの発明や技術などで特許を取得しており、そのノウハウを生かして安定して高い売上を出している人材に限られているようで、単に「よっしゃー、中国で見分を広めて、起業してやるぜ~」というレベルだと到底取得できません。
中国で起業を考えているなら、Z ビザの B 類を取得し、現地で仕事をしながら企業内でイノベーションを起こすことを目指すのも良いかもしれません。
日本での仕事の探し方
中国での現地採用を目指す場合、日本国内で Z ビザの手続きを始める必要があります。「とりあえず、中国に旅行で行ってみて現地で働きたくなったら応募してみよう」なんてことは今の法制度では無理です。つまり、仕事探しは日本におけるネットでの情報収集からスタートすることになるわけです。
中国の求人情報を探す際に私が個人的によく使っていたのは「ALA!中国」というサイトです。中国企業の求人のみならず、日本国内の中国語を使った仕事も多数紹介してくれています。メルマガ登録をすると、新着求人メッセージも配信してくれるので長く利用していました。
また、「カモメ中国転職+アジア」も中国勤務に特化した求人情報を多数掲載しています。とくに上海、深センなど大都市圏での求人に強いサイトです。
以前よりも中国ビジネスが難しくなっている今、とりあえず中国に渡って働いてみたいという方におすすめなのが、私も経験した B 類(4)の「外国語教員」です。つまり、大学や企業での日本語教師ですが、応募条件として大卒は求められるものの、日本語教師としての経験はあまり求められません。企業での勤務に専門的知識・経験が求められるのとは大違いです。
また、後述しますが、なにより有難いのが中国語の語学力不問の条件がほとんどということです。むしろ、下手な中国語を話すより、標準日本語を話すことさえできれば大歓迎という学校もたくさんあります。というのも、こちらが日本語しか話せないほうが、中国人の学生たちにとっては負荷がかかって、語学力アップにつながるからです。
都市ごとの特徴
中国の都市は日本とは桁違いの規模と数を誇ります。これらの都市を分類するにあたって参考になるのが毎年「第一財経」が発表している「新一線都市魅力度ランキング」です。
2024年の結果では、「一線都市」として上海、北京、広州、深センの4つが挙げられました。続く「新一線都市」とは「一線都市」になる可能性が高い都市を指し、成都や重慶などが含まれます。
中国でビジネスをしたいなら、圧倒的に有利なのは「一線都市」です。仕事も見つけやすいですし、日本各地の空港からのアクセスも便利です。ただ、いずれの都市も物価が高く、家賃や物価はエリアによっては日本と変わらないか、それ以上になる可能性もあります。
個人的におすすめなのは、「一線都市」や「新一線都市」から離れた「三線」以下の都市です。いわゆる中国の田舎にあたるエリアですが、人口は約10億人、全人口の約3分の2が住んでいます。
最大の魅力は家賃や物価が安いことで、一線都市の約十分の一といっても言い過ぎではありません。当然ながら三線都市以下の求人情報は多くはありません。しかし、見つけることができれば、応募する人数も多くないため、重宝され、高待遇を受けられる可能性も高いです。
また、人口が多い中国の「田舎」には大きな可能性を秘めたマーケットが広がっています。特にインターネットが中国全域に敷設されているおかげで IT を使ったイノベーションも進んでおり、ライブコマースで農産物を販売したり、配車・配達サービスも広がったりしています。「古き良き」姿の雰囲気を残しながらも、変容していく中国を見たいなら、大都市以外の求人を探してみるのも手かもしれません。
中国ビジネスに求められる中国語レベル
インターネットで求人を探していると気づくのが外国語教員を含めて多くの企業が中国語能力を不問にしている点です。というのも技術職であれば、ほとんどがマネジメント業務で、自ら中国語で指示を出すよりは、通訳を介して同僚や部下とコミュニケーションするポジションも多いからです。
また、中国で生活すれば中国語を使わざるを得ないシーンも増えるため、普通に仕事をしているだけでも自然と中国語は身についていきます。そのため、「中国語は話せたら良いけど、話せなくてもどうにでもなる」というのが私の経験を踏まえた感覚です。
中国ビジネスで注意したいこと
中国ビジネスで注意したことは次の一言に尽きます。
「入乡随俗(Rùxiāngsuísú)」=郷に入っては郷に従え
中国でビジネスをする日本人がよくやってしまうのは「中国人は〇〇」とか「中国は〇〇だから✖✖」という、日本人の視点から中国のビジネス習慣や企業文化を見てしまうことです。
例えば、中国ビジネスで絶対忘れてはいけないのは上司や同僚、取引先の「メンツ(面子)」です。中国のビジネスマンが大事にしている価値観を学ばずに、日本のビジネススタンダードで判断するのはナンセンスです。「郷に入れば郷に従」いましょう。
中国におけるメンツとは何かについてはこちらの記事をご覧ください。
まとめ~ハードルは高い!でもその価値はある
以前に比べて中国でのビジネスのハードルは高くなりました。それでも一歩踏み出す価値はあります。中国語がどれだけ話せるのかは関係ありません。大切なのは、中国のことをもっと知りたい、色々な人たちと繋がりたいという好奇心だけです。
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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