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伝わる中国語②〜「心」を知れば中国語がもっとおもしろくなる!感情表現の深い世界

人物の胸元に透明なハート状のオブジェが浮かび、内部で金色の漢字と光がきらめく幻想的な表現

中国語には「心(xīn)」を含む言葉が驚くほどたくさんあります。心は単なる臓器ではなく、人の思考や感情の中心。「关心」「热心」「放心」—これらはすべて、中国語が捉える心の動きを映し出した言葉です。


なぜ中国語では、心がこれほど豊かに使われるのでしょうか。その背景には、中国語ならではの「感情の構造」や「人との距離感」の捉え方が深く関係しています。本記事では、心を含む語彙をひもときながら、中国語が映し出す感情世界の奥深さを探っていきます。



中国語でみる多様な「心」


暗がりに立つ人物の胸元で、赤く発光する漢字が浮かび上がるドラマチックなポートレート

思考も感情も「心」に宿る


中国語における心は、日本語の「心」と重なる部分もありますが、より広く「人間の精神活動の中心」を指す傾向があります。


古代中国の思想では感情だけでなく、思考そのものも心が担うと考えられてきました。儒家の代表的な思想書『孟子』には、次のような一節があります。

”心之官则思,思则得之,不思则不得也,此天之所与我者,先立乎其大者,则其小者弗能夺也,此为大人而已矣”


意味:心は考える働きを持っている。考えれば道は開けるが、考えなければ何も得られない。この思考力は天から授かった大事な能力だ。まず大きな目的・正しい道をしっかり据えておけば、小さな誘惑や障害に惑わされることはない。これこそ“立派な人”のあり方である。


この一節が示しているのは、「考える力」もまた心の働きであるという考え方です。中国語では感情に限らず、「判断力・態度・注意力」といった内面の働きも“心”で表現する 語彙体系が形成されています。


頭ではなく心で感じる


日本語では「頭で考える」「心で感じる」と機能を分ける場合が多いですが、中国語では同じ領域を心に一本化する傾向があります。

たとえば、

  • 小心(気をつける)

  • 关心(気にかける)

  • 有心(意図がある)

  • 费心(気を使う、骨を折る)

これらは心が動き、注意や配慮が働くことを示す語彙です。中国語では、「注意力」も「配慮」も「感情」も、すべて心から生まれる働きとして捉えられています。



「心」を含む代表的な表現


開かれた古書の上に、光の粒子とともに宙に浮かぶ金色の漢字が現れる神秘的なシーン

「放心」「热心」「小心」などの語感の違い


放心 は「心を放つ」、つまり「安心する」。

热心 は「心が熱い」、つまり「積極的・親切」。小心 は「心を小さくする」、つまり「慎重に、注意深く」。


伤心は「心が傷つく」感覚を表し、「胸が痛む」ような悲しみを意味します。

窝心は「心の奥がぎゅっとする」ような、不快さやもやもやした感覚。

暖心は「胸が温かくなる」ような、ほっとする感情を表します。


いずれも「心」+状態語で情緒的ニュアンスを形作っています。このように、中国語の心語彙は、身体感覚に近い比喩構造を持っているのが魅力です。感情を色や温度のように「状態」で表現するため、語感が直感的に伝わります。


一文字で感情の方向が変わる


中国語の「心」語彙は、一文字違うだけで方向性が大きく変わります。

例えば、以下のような対義語があります。


  • 专心(集中する)/分心(気が散る)

  • 关心(気にかける)/担心(心配する)

  • 费心(気を遣う)/省心(手間が省けて気が楽)


上記の例からわかるように、「心」と組み合わされる文字によって、心がどの方向へ動いているかが表現されます。 翻訳業務では、その語が示す「心の向き」まで読み取ることが重要になります。



日本語の「心」との使い分け


空と水面を背景に赤い提灯が吊るされ、隣に漢字入りの円形アートが並ぶミニマルで静謐な構図

日中の語彙構造の違い


日本語にも「心」は存在しますが、中国語ほど体系的に心理機能を表す派生語のネットワークはありません。というのも、日本語では「心」は主に感情気持ちを表す語として使われ、「頭で考え、心で感じる」という役割分担が比較的はっきりしているからです。

中国語が心を中心に多方向へ意味を広げる言語構造を持つ一方で、日本語の「心」はより抽象的で、単語形成よりも比喩的な表現として用いられることが多いと言えるでしょう。


翻訳で迷う心のニュアンス


翻訳でとくに注意したいのは、中国語の“心”がそのまま日本語の「心」に対応するとは限らない点です。


直訳すると不自然になりやすく、文脈によっては「注意」「配慮」「心配」「負担」などに置き換える必要があります。翻訳者には「心」という漢字の形に引きずられることなく、その語彙が示す感情の向きや役割を見極める力が求められます。



中国語が映す「感情の地図」


精緻な装飾文様の円形フレーム中央に、赤いハートと金色に輝く漢字が配置された幻想的なアート

中国語の心語彙を見ていくと、人との関係性や感情の変化を非常に細やかに捉えていることがわかります。いずれも、心の「距離」や「温度」が巧みに使われ、感情が立体的に描き出されています。中国語の語彙そのものが、人間関係や内面の動きを写し取る――いわば「感情の地図」のような存在なのです。


ここでは、この感情の地図を「状態」「方向」「温度」「動き」という4つの視点から整理してみます。日本語とは異なる、中国語ならではの柔軟な感情の捉え方を味わってみてください。

分類

成語・単語

直訳 (語構造)

実際の意味

日本語との違いのポイント

① 状態

开心(kāi xīn)

心が開く

嬉しい・楽しい

日本語では心の状態をここまで身体的に言わない

伤心(shāng xīn)


心が傷つく

悲しい

「悲しい」を身体感覚で説明

担心(dān xīn)




心が担う

心配する

不安を“心が負荷を抱える状態”で表現

耐心(nài xīn)

心が耐える

忍耐強い

心の性質=行動特性として表す

② 方向

上心(shàngxīn)

心が上に向く

向上心がある

心の向き=意欲の方向

居心(jūxīn)

心を居させる

意図・下心

心の位置=意図の方向

关心(guān xīn)

心を向ける

気にかける

“注意を向ける”ことも心で表す

放心(fàng xīn)

心を放つ

安心する

心の向きを変える=気持ちの切り替え

③ 温度

热心(rè xīn)

心が熱い

親切・積極的

情熱を温度で表現

冷心(lěng xīn)

心が冷たい

冷淡

感情の薄さ・距離感を温度語で表す

暖心(nuǎn xīn)

心が温かい

心温まる

ポジティブ感情を“温度”で修飾

伤心(shāng xīn)

心を冷えさせる要因によって痛む

深い悲しみ

“痛み”と“温度低下”の混柔概念

④ 動き

心动(xīn dòng)

心が動く

ときめく・心惹かれる

恋愛・興味を“動き”で表す

动心(dòng xīn)

心が動き出す

心が揺れる

悪い誘惑にも良い感情にも使える

分心(fēn xīn)

心が分散する

心が散る・集中できない

注意散漫を“心の動き”で表現

齐心(qí xīn)

心をそろえる

心を一つにする

複数人の感情を動きで統一

日本語では一語で表しにくい微妙な感情も、中国語では心の変化として一語で成立します。 この「感情を即座に語彙化する力」こそが中国語の面白さであり、翻訳の醍醐味でもあります。



まとめ:「心」を知ると、中国語がもっと豊かに見えてくる


淡いグラデーション背景に、回路のような線とアイコンが広がり、中央のハートに漢字が描かれた抽象的なビジュアル

心を軸に広がる中国語は、単なる感情表現を超え、思考・判断・対人距離までも織り込んだ、非常に立体的な体系を持っています。


「この語彙の“心”はどの方向へ動いているのか?」そう意識するだけで、中国語の世界は一気に深く、豊かに見えてきます。翻訳業務においても、心のニュアンスを丁寧に読み取ることが、自然で伝わる表現を生み出すカギになります。


「心」を知れば、中国語はもっとおもしろくなる。そしてその理解が、より正確で温度の伝わるコミュニケーションへとつながっていくのです。



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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。





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