コロナウイルスの影響で同じような毎日ばかり過ごしていると時間の経過に鈍くなっているに自分に気づきます。この前2021年になったと思っていたら早いものでもう5か月が過ぎようとしています。
家の中に籠っていても季節は巡り、世界は確実に動いています。そこで今回は中国の流行語を通じて、2021年上半期の中国トレンドを振り返ってみることにしましょう。
1.宅家(Zhái jiā)
漢字から見当がつく方も多いと思いますが、「ステイホーム」の意味です。日本語の場合、「宅」も「家」も同じ意味を持っているため、Google 翻訳にこの語を入力すると「ホームホーム」と翻訳されます…。「新型コロナウイルス」は「新冠病毒(Xīnguān bìngdú)」ですが、この語と組み合わされて「新冠宅家」と使われているのもよく見かけます。日本語のちなみに「オタク」は「宅男(Zháinán)」「宅女(Zhái nǚ)」といいます。
2.A爆了(A bàole)
この言葉はファンやフォロワーが自分のお気に入りのアイドルに対して使う言葉です。男女いずれに対しても用いることができますが、男性アイドルに対して使われることが多く、「超かっこいい」「ヤバいくらいかっこいい」といった意味です。それは単なるルックスに対してだけでなく、映画やドラマの演技や役柄に対しても用いられます。「超A(Chāo A)」もほぼ同じ意味です。
3.有feel(Yǒu feel)
近年のトレンドワードやネット上の流行語は中国語の漢字と英語を組み合わせたものも多く、若者たちによって頻繁に使われています。この言葉もその一つですが、「feel」を「感覚」に入れ替えると大体の意味は分かるでしょう。中国語の「有感觉(Yǒu gǎnjué)」には「何らかの感覚がある」というよりも、「相手に対して好ましい感覚、印象がある」ときに使われることが多いです。
4.ins博主(Ins bó zhǔ)
博主とはブロガーのことで、insとはインスタグラムのこと。つまり「ins博主」とはインスタグラマーのことを指します。ちなみに影響力のあるインフルエンサーの一人として注目されているのが、中国版「Vogue」の編集長に弱冠27歳で抜擢された章凝(Zhāng níng)で、インスタのフォロワー数はなんと1100万とのことです。
5.直播带货(Zhíbò dài huò)
これもコロナ禍が生み出した流行語の一つでしょう。在宅時間が増えたことにより、急速に伸びたEコマース手法がこの「直播带货」、つまりライブ配信で商品を販売する方式です。実際に自分が衣服を試着してみたり、化粧品を使ってメイクしてみたりと、視聴者の購買意欲を刺激して莫大な収益を上げた「ライバー」も登場。
昨年11月11日、いわゆる「双11(中国最大のECセールの日)」には人気ライバー「辛巴」が12時間以上にわたるライブ配信で総売り上げ18億8000万元(約290億円)を達成し、1回のライブ配信による売り上げ最高記録を更新しました。
6.ins风(Ins fēng)
「ins」とは前述したようにインスタグラムのこと、つまり「ins风」とは直訳すると「インスタ風」という意味です。では、日本でもインスタ上の写真を形容するのに「ばえる」や「エモい」といった様々な言葉が使われ、その意味は広範囲かつ抽象的、また感覚的なものです。中国語の「ins风」も説明するのが難しい言葉ですが、例えばシンプルながらも高級感のある、家の装飾の雰囲気を表すのに使われます。
7. ing
これもネット上で若者たちによく使われているトレンドワードです。意味は英語の現在進行形を表す ing と同じで、「今、自分が何をしているのか」を相手に伝える際に用います。例えば、「游戏ing(ゲームをしている)」、「看电视ing(テレビを見ている)」などのように、中国語の単語に「ing」を加えて使います。
考えてみると、中国語で現在進行形を表す動詞の変化形はないため、「在(今~している)」、「正在(今まさに~している)」といった言葉と組み合わせるしかなかったのですが、英語の「ing」をくっつけることによりこれまで表現できなかった感覚を表せるようになったのかもしれません。
8.bling bling
もともと英語で使われていた表現で、ヒップホップカルチャーに由来する言葉です。「ピカピカ光っている」という意味で、ジュエリーやダイヤモンドを自慢するときに使いますが、それが転じて「派手でけばけばしい」という意味にも使われます。英語にもおいては友達同士の会話の中で使う表現ですが、中国ではネット用語として物に対してだけでなく、女性を形容するのにも使われます。
9.飒(Sà)
もともとは風の音を表す言葉ですが、「かっこよくて、爽やか」という意味で使われるようになりました。コロナ禍で医療関係者の働きぶりを形容するのに用いられた言葉で、特に女性に対して用いられます。日本語の「颯爽(さっそう)」という意味にかなり近いといえるかもしれません。
10.小清新(Xiǎo qīngxīn)
文学、音楽、アート、ライフスタイルを形容する言葉であり、またそのスタイルを好む若者たちのことを指して用いられます。日本語に翻訳するのは難しい言葉ですが、前述した「bling bling」とは対極にあるスタイルといえるでしょう。
喧噪から離れて静かでシンプルな生活を好み、ヘッドフォンで音楽を聴いたり、自分が好きな文学を読んだり、映画を見たりすることを愛し、一眼レフをかかえて一人旅にでかけるような女の子、それが「小清新」のイメージであり、90年代以降に生まれた若者たちにはこうしたライフスタイルを好むタイプが多いように思います。
小清新が好むアーティストの代表格として「苏打绿(Sūdǎlǜ)」「牛奶咖啡(Niúnǎi kāfēi)」を挙げることができます。検索して彼らの PV を見ると、きっと「小清新」が包含しているイメージがつかめるはずです。さらに日本の作家でいえば村上春樹、映画監督でいえば岩井俊二といったら、なんとなくお分かりいただけるのではないかと思います。
以上、2021年上半期のトレンドワード10選をご紹介しました。これらのトレンドワードから見えてくるのは、SNS によって言葉の表現の幅が広がっているということです。中国語は外来語や外国人の名前もすべて漢字によって表記してきましたが、若者たちは自分たちの素直でみずみずしい感覚を表現するために英語からも借用し、それが一気にネットで拡散していることがわかります。
2021年末には下半期のトレンドワードもお伝えしたいと思いますので、お楽しみに!
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。
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