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ネット上の長城、立ちはだかる「金盾」の壁


中国に行ったことがある皆さんは、おそらくネット検閲についてはよくご存じでしょう。

ひとたび大陸に降り立つと、いつも日本で見ている Google、Facebook、YouTube などメインの情報収集サイトへのアクセスがブロックされます。

数日の旅行ならまだしも、出張などで滞在する場合や期間が長期にわたる場合は、いささか不便さを感じるかもしれません。



かなり前のことになりますが、日本に働きに来ていた中国人の友人が「日本に来て中国のことが嫌いになった」と言ったのを今も覚えています。その理由は日本に来て手に入るインターネット上の情報量が広がり、中国で触れることができなかった中国政府に関する様々な情報を見るようになったから、というもの。その友人は今すでに中国に戻りましたが、日本や他国で当たり前のサイトが使えない世界をどのように眺めているのか気になります。しかも、彼が日本に来る前の中国と比べ、今はさらにネット規制が強化されています。


こうした中国のネット規制は「金盾(きんじゅん/Jīndùn)」というネット検閲システムによってなされていますが、その目的は言うまでもなく中国国民が共産党政府にとって不都合な言論やニュースに触れないようにするためです。

中国国内で投稿された情報はもちろんですが、海外の SNS にはそもそもアクセスできないようになっており、上に挙げたサービス以外にもわたしたちが毎日使っている LINE、Instagram、Amazon(中国版の Amazon はアクセス可)、Skype(中国版は可)、Twitter などが現在、中国からはアクセスできないようです。Microsoft のサービスは使えるので、中国に行くときは Outlook メールや OneDrive を使うというのも手です。


私が 2008 年に中国に渡った頃は Google が中国から撤退する前であり、Gmail にも普通にアクセスできたことを覚えていますが、その後 2010 年以降、Google サービス全般が使えなくなり、約 10 年の中国滞在において金盾による規制は厳しさを増してきた感じがしていました。特に今年コロナウイルスの影響で延期になった全人代(全国人民代表大会)が開催される時期の前後は言論規制が強化されますので、上記で挙げたサービス以外の日本語ニュースであっても突然閲覧ができなくなることがよくありました。


VPN が定番の回避法に


当然、そのようなネット環境であれば、まともな情報収集はできませんし、日本の家族や友人との連絡も不便極まりありません。多くの外国人が VPN(仮想プライベートネットワーク)を利用しており、私もそうしていました。

ただ、中国政府のネット規制が強化されるにつれて、VPN も使えなくなることがありました。当時、私はアメリカの VPN サービスを利用していましたが、中国の政治的な状況が緊張し、VPN すらも遮断されるような状況になると、VPN 提供の会社からメールで「別サーバーを経由して接続するように」とメッセージが送られてきて、ネット空間でせめぎ合いがなされているのを感じ、単にインターネットを繋ぐのにもやたらと緊張していたことを覚えています。


今振り返ると息が詰まりそうな環境のように思えますが、不思議なもので中国にずっと生活しているとだんだんと慣れてきますし、たまに日本に帰国したり、香港やマカオに行ったりすると、ごく当たり前のように Google に接続できることに大きな感動を覚え、逆にどんなサイトにも簡単にアクセスできることに違和感を覚えることさえありました。


日本にいると、ネット規制が厳しい環境で中国人はいったいどうやって生活しているのだろう、と感じるかもしれませんが、まず未だにそうしたネット検閲がなされていることすら知らない人たちもたくさんいます。もちろん、情報収集に敏感な若者たちは中国国内でも VPN を利用して国外のサイトにアクセスしようとしますが、中国国内には Google やYouTube を見ることができなくても、あるいは LINE や Facebook が使えなくても不便を感じないような、様々な代替サービスがあります。



「不便」さを感じさせない充実の中国サービス


例えば、私が中国に渡ったばかりの頃は中国人はみな「QQ」を使ってお互い連絡を取り合っていました。その頃、日本には LINE もありませんでしたので、メッセージ機能だけでなく、ブログ記事を投稿できる機能も併せ持っている「QQ」を使っている中国人は日本人より進んでいる、という印象すら覚えたものです。現在は中国人であれば誰でも「微信(WeChat)」を使っていますので、海外の SNS がなくても中国国内で生活する上で(あるいは海外に住んでいても中国人と連絡する際)は何の不便もありません。

YouTube が使えなくても「ビリビリ動画」や「豆瓣」、「优酷」などの動画サービスが山ほどあり、著作権の規制が低いため、無料で海外のドラマや映画も見放題です。


また、Google がなくても百度(バイドゥ)があり、Google Drive は「百度云(云は「雲~=クラウド」の意)」などのクラウドサービスで代替可能です。また、Google はアカウントさえあればクラウド上で共同作業ができるのが大きな強みですが、現在 QQ を開発したテンセントが「TIM」という、ワードやエクセルをオンラインで共同編集できる機能を持つサービスを開発しており、使い勝手もまあまあだと言われています。また、一起写」、「石墨文档」など共同編集が可能な代替サービスも国内で人気を集めています。


そして、使ってみるとわかりますが、それら中国国内のサービスは、海外サービスと比べて全く遜色ありませんし、むしろ使いやすさすら感じられる設計になっているため、多くの中国人は私たちが VPN を繋いでまで Google にアクセスしたり、LINE を使ったりしようとする意図が理解できないようでした。




天下没有免费的午餐(タダより高いものはない)


ただ、どんなことにも言えることですが、無償で提供される便利なものには必ず隠された目的があります。現在中国人のほぼ 100% が「微信(WeChat)」を使っており、その使いやすさゆえに、そして他に代替するものがないために、国民すべての投稿がそこに集中し、結果として政府は国民ひとりの一挙手一投足を手に取るように把握することができるというわけです。また、クラウドでデータをアップロードしたり、共同作業をする際も当局の監視下に置かれていますので、企業の機密データをオンラインで扱うことはかなりリスクが伴いますし、私もクラウドを経由する場合は、他のソフトでパスワードをかけた上でやりとりしていたことを覚えています。


今回の新型コロナウイルス対策において、中国は国民一人ひとりを監視下に置き、WeChat を使った支払履歴や行動記録から、濃厚接触者や感染経路を徹底追跡することに成功しました。これは、中国政府の管理体制がプラスに働いた部分と言えなくもないですが、他の国ではとても考えられない手法だと言えます。


「金盾」は「グレートファイアウォール」とも呼ばれており、その名称はかつて北方騎馬民族に脅かされた「万里の長城(グレートウォール)」から来ています。宇宙からも見ることのできる建造物を実際に目にした時に、「よくこんなものを作ったな」とたた唖然とした記憶がありますが、今、「金盾」が目指していることもどこか似ているような気もします。計り知れない情報が飛び交うサイバー空間に検閲という「壁」を建設してしまった以上、それをどこまで維持できるのか、壮大な試みが中国では続いています。



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著者プロフィール

YOSHINARI KAWAI

2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、その後約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。現在はアフリカのガーナ在住、英語と地元の言語トゥイ語と日々格闘中。


編集者プロフィール

Satoko

中国語と中国文化に惹かれてはや 10 年。毎年数回、家族が住む中国南西部にプチ滞在。職業柄 Google とインターネットが手放せず、毎回の訪中時は香港・大陸 SIM と現地携帯、VPN、現地用のポケット Wi-Fi 2台持ちの重装備。日中英翻訳とマーケティングコンテンツ制作が得意。

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