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ビジネスとアートは両立できるか:起業家「兼」 アーティストのジレンマ

更新日:2021年7月21日


「理性と感情」「直感と論理」など、私たちは捉えにくい抽象的な概念を対立させて理解しようとします。しかし、考えてみると、理性抜きの感情はあり得ませんし、深いロジカルシンキングから鋭い直感が生まれてくることもあり、往々にしてそれぞれの概念を掘り下げていくと、お互いが深いところでつながっているということに気づかされます。


ビジネスとアート」もその部類といえるかもしれません。わたしたちは漠然とビジネスとアートは相容れないものであり、「彼方立てれば此方が立たぬ(=両立できない)」関係だと考えています。ビジネスとして成功させようと思えばアートは追求すべきでないし、アートでお金儲けを志向することにどこか引け目を感じてしまう、という方も少なくないのではないでしょうか。

私たち翻訳会社は一見ロジカルなビジネスだと捉えられがちですが、限られた時間の中でクリエイティビティに妥協すべきなのか、それともたっぷり時間をかけてよいものをつくるべきなのかという点でいつも悩まされています。


今回はアーティスト、クリエイター、パフォーマーなどが直面するこの「ビジネスとアート」問題に焦点を置き、どうすればこの 2 つに折り合いをつけられるのかを一緒に考えてみたいと思います。




ジェームズ・キャメロンの仕事の流儀


映画監督のジェームズ・キャメロンという名前を聞いて、「知らない」という方はきっといないでしょう。では、皆さんは彼をどのように評価しますか?ビジネスマン?それともアーティスト?


彼がビジネスマンとして大成功をおさめたことは誰も疑わないでしょう。世界歴代興行収入ランキングで彼が監督した「アバター(2009 年)」は第二位、「タイタニック(1997 年)」は第三位にランクインしています。



彼はアーティストとは呼べないのかというと、もちろんそんなことはないでしょう。「アバター」も「タイタニック」もどちらも別の原作を映画化したり、続編を撮ったりした作品ではありません。ジェームズ・キャメロン自ら脚本を書いています。また、彼の撮影手法はカメラにこだわり、奥行きのある画作りでも知られています。



完璧よりも「正しい」を追求する


では、彼はどのようにしてビジネスとアートの狭間で折り合いをつけているのでしょうか?これは自分の仕事の流儀に関して次のように述べています。


「私は完璧主義者と呼ばれますが、そうではありません。私は正しいことを目指しているだけです。私は物事が正しく行われるまでやめません。そして正しく行われれば次へと進みます。」
“People call me a perfectionist, but I'm not. I'm a rightist. I do something until it's right, and then I move on to the next thing.”

この言葉からビジネスマンとしても、アーティストとしても成功をおさめた彼の折り合いの付け方が分かります。それはアーティストとして芸術的な完璧だけを目指すわけでも、ビジネスマンとして商業的成功だけを求めるのでもなく、「正しい(right)」ことを行うということです。ジェームズ・キャメロンが何をもって「正しい」と考えたのかは分かりませんが、確かなことは彼が仕事の結果よりも、手法やプロセスを大事にしているという点です。



正しいとは、自分のセンスを信じること


たとえば、以下のコンピレーション動画では、『殺人魚フライングキラー』の撮影時に製作者たちと意見が合わず解雇されたという監督のエピソードが語られています。




私たちが、ある仕事を受注するかどうか、また受け入れた仕事をどのように仕上げるかに当たって、クライアントの顔色を伺いながら、いかに次の仕事につながるかを考えるのは当然です。またそれだけでなく、クリエイティブな仕事の場合、自分なりのこだわりを大事にするのも分かります。ただ、「相手」か「自分」か、そのどちらかだけに思いを向けていると、一体どこまで突き詰めればよいのか、分からなくなることがあります。


しかし、もし私たちがジェームズ・キャメロンのように、自分なりの「正しい」やり方を持っていれば、結果がどうであれそれに沿ってやれば満足できるのであり、これが一つのビジネスとアートの折り合いの付け方と言えるでしょう。



自分のビジョンを可視化する


問題は自分なりの「正しい」やり方をどのように確立するかということでしょう。


著書「VISION DRIVEN 直感と論理をつなぐ思考法」(ダイヤモンド社、2019 年)の佐宗邦威氏はもともとデータに基づく科学的アプローチでマーケティングを担当していたバリバリの「左脳派」でしたが、その後イリノイ工科大学に留学、デザインを学びました。


佐宗氏は人と関わりながら仕事している、目に見える現実社会だけを生きるのではなく、独創力を養うための「地下世界」で自分の妄想を育てたり、イメージを可視化したり、それを表現することが必要だと言います。こうした世界と行き来することで、彼曰く「ビジョン思考」が身に着くようになると言います。そして、ビジョン思考が身に着くと、根拠のないものを「これでいい」と言い切れるようになるとのことです。


結局、自分なりの「正しさ」を見つけるためには「理性と感情」「直感と論理」の間を行き来しながら、試行錯誤するしかないのかもしれません。でも、そうしたプロセスを続けるとき、佐宗氏がいう次の感覚が「しっくりくる」ことに気づけるはずです。


「すべては妄想からはじまる」



参考サイト:


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI

2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。


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