皆さんは「フロー」という言葉をご存知でしょうか?
今回のブログでは、『フロー体験入門――楽しみと創造の心理学』という本をベースに、その世界観を少し紐解いていきたいと思います。
この本の著者ミハイ・チクセントミハイは「喜びとは、積極的な感情の典型」だと言っています。アリストテレス以降の多くの思想家が述べているように、結局人類はこの「喜び」という感情を見出すためにあらゆる努力を払ってきたと言っても過言ではないでしょう。富や健康、名声の追求もまた然りです。
しかし、そうした努力を続ければ本当に幸福になれるのでしょうか?
富や名声だけを追い求めても、人間は幸せになるどころか、不幸になることさえあります。論理的に考えると、おかしな話ですよね。
古代ギリシャの哲学者エピクロスの言葉に、「欠乏ゆえの苦痛は、満たされてしまえば取り除かれる。そこに喜びが生まれるものの、その後増し加わることはなく、ただ別の種類のものへ変化するに過ぎない」というものがあります。
つまり、物質的な欠乏がなくなった後、内的な幸福感を増し加えられるかどうかは自分次第だということです。
「自分は何のために生きているのか」思考力をフルに働かせて考えなければ、得られる感動は単なる薄っぺらい体験に過ぎません。この状態では、本来持つ潜在力のごく僅かしか発揮できないでしょう。
同書では、このような前置きを経た後に、「フロー」と呼ばれる、より高い次元の喜びが紹介されています。
「フロー」とはチクセントミハイが提唱した心理学上の概念であり、自分のパフォーマンスが最高に達したときに自然とやってくるリラックスした状態。
アスリートの場合は「ピークエクスペリエンス」や「ゾーン」、芸術家や音楽家であれば「インスピレーションがまるで泉のように湧き出してくる」状態と表現されることもあります。
「〇〇時間連続でゲーム」もあながち堕落ではない
長時間にわたってある事柄に完全にのめり込んで没頭すれば、忘我の境地に達し、言葉では形容できない喜びと興奮を経験することがあります。
美味しいものを食べること、美しい服を着ること、健康な体、仲睦まじい家庭、楽しいおしゃべりなど、人は様々な喜びを経験します。しかし、これらの喜びは束の間のものです。また、富を得るために自分のことをないがしろにし、他人の顔色ばかりうかがい、本当の喜びを感じられなくなっている人もいます。
深い没入感が得られる「フロー」に達するためには、出世や地位にこだわりすぎず、自分の能力と潜在力を発揮できる仕事が必要です。
また、挑戦するレベルの設定も重要です。持っている潜在力を発揮でき、全身全霊でのめりこみ、フローに達することができるからです。普段では経験できないような感覚と体験がそこにはあります。
このフロー状態は、物質的な満足感、快感とは異なります。それは、心の底から泉が滾々と湧き出てくるような、穏やかで力強い感覚であり、経験を通じて訓練された高度で、内的なスキルとも言えます。そのスキルを訓練する過程、あるいは潜在力を発揮して仕事に打ち込んだり、集中して創作活動をしたりするときに、この深い喜びを感じることができるようになります。
フロー状態に達するためには
エクササイズやアート、趣味、あるいは自分の好きな仕事をする時、フローに達するのはそんなに難しいことではありません。仕事を遊びのように、遊びは仕事のように捉え、どちらもベストな状態に持っていくことができます。
食事などで複数の人が集まっている時でもフローに達することは可能です。人数は多すぎても一体感を感じにくいですし、少なすぎると盛り上がりに欠け、互いに刺激し合うのが難しいので、4、5 人が良いでしょう。背景や趣味の似たもの同士がちょうどよい人数集まり、会話をするとそこにフローが生まれます。みんながその場に集中し、お互いの考えを語り合うことでフローの共鳴が生じるのです。
また、ドイツのある研究によると、読書経験が多い人ほどフロー体験が多く、テレビや連続ドラマばかり見ている人はその逆になってしまうそうです。
フローを生み出す 3 つのポイント
1.これからの予定を把握する
集中力を高めるためには、まず至る方向に向いているであろう注意を一点に集中させることが肝心です。「あれもやらなくちゃ、あっ、これも」と注意が多方向に向いてしまうと、今本当にすべきことに注力できません。
今日優先してやることはどれなのか、いつまでにやるべきなのか、その後に何をするのか、と、まずはやるべきことのスケジュールを立てましょう。
2.障害物を取り除く
自分のタスクの邪魔になりそうなものは、あらかじめ取り除いておきましょう。不意の電話に気を取られたくなければスマホの通知をオフにするか別室に置いておく、仕事の時に必要なものを手の届くところに集めておくなどの準備を整えます。
深い集中を得られるかどうかは、その時々の環境や空間づくりにも大きく左右されます。実際に仕事を始めてから忘れ物に気付いて別室に取りに行ったり、外出せざるを得ないといった状態をできるだけ避けるのがポイントです。
3.スイッチを入れる
最後に、自分を心地よくさせてくれるいつものルーティンで脳にスタートの合図を送りましょう。コーヒーを飲む、好きなお菓子をかじる、仕事用の BGM をかける、ヘッドフォンをする、椅子から立って深呼吸する、いつものブランケットや枕を持ってくるなど、脳のタイプによって集中のスイッチは異なります。
大切なのは自分の好きなことを見つけ、深く掘り下げること。
自分が打ち込めるものとは何かを考え続け、記録するのです。長い時間をかけて繰り返し練習し、潜在能力を刺激していけば、フロー効果はどんどん強くなっていきます。フローを通じて言い知れない充実感と満足感を感じることができれば、そこからさらに次の行動に向けたモチベーションが湧いてくることでしょう。
Comments