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執筆者の写真SIJIHIVE Team

実は深い翻訳業界⑰~フリーランスと法人、実際どっちが有利なの?



翻訳業界で圧倒的多数派を占めるフリーランス、日本には一体全体どのくらいいるのでしょうか?


ランサーズ株式会社が2021年11月に行った「新・フリーランス実態調査2021-2022年版」によると、フリーランス人口は約1577万人。調査が開始された2015年と比較すると約640万人も増加したようです。同社はフリーランスを「副業系すきまワーカー」「複業系パラレルワーカー」「自由業系フリーワーカー」「自営業系独立オーナー」の4つに分類していますが、そのうち「自営業系独立ワーカー」は全体の31.7%で、その中には法人成りした「マイクロ法人(ひとり会社)」も含まれます。


フリーランスの翻訳者の中にも、さまざまな理由で法人化を検討している方もおられるでしょう。そして、おそらく何人も従業員を雇って手広く業務を展開したい、というよりはマイクロ法人を考えているケースがほとんどだと思います。


今回は、法人化を考える場合、知っておきたいメリット、デメリットを紹介します。


いかにしてフリーランサーになるのか?



「法人成り」という言葉はありますが、「フリーランサー成り」とはいいません。名前の通り、フリーランサーは「フリー」であり、法人と異なり誰かから認証してもらう必要はないからです。「今日から私はフリーランサー」と宣言した時点が「フリーランサー成り」の瞬間です。


翻訳者であれば、企業勤めを経て翻訳学校に通い、独立するパターンが一般的です。中には、翻訳会社や外資系で社内翻訳者、もしくはほかの職種で翻訳をするポジションで勤務していたものの、翻訳者として独立するケースもあります。


独立後は、上述したランサーズの分類でいえば「副業系すきまワーカー」か「複業系パラレルワーカー」からスタートする方がほとんどでしょう。


翻訳者の場合は、有名どころでいえばアメリアなどのコミュニティに登録して仕事をさがしたり、他のクラウドプラットフォームで単発の仕事を受けたりするのが一般的です。


プラットフォームはさまざまですが、共通しているのは、トライアル(テスト翻訳)に合格すること。それによって自分の実力を証明できたら、仕事の依頼をもらえるようになります。


その後、クライアントと信頼関係を構築し、経験値を上げていくことで徐々に長期的な仕事をいただくことができます。最近は「Continuous Translation*」という継続的な依頼を行う翻訳会社も増えており、毎日仕事の依頼を受けることも可能です。


依頼形態が安定してくると、「自営業系独立ワーカー」の仲間入りです。さらに経験を積み、依頼が増え、売上が上がり、その先に見えてくるのは法人への道です。


もっとも、翻訳が好きで独立した方は、自分のペースで受けられる量の仕事を、高いクオリティで仕上げたいという方が多く、経営や法人成りには目もくれず、「フリーランサー一本」という方も多いようです。


他方、翻訳だけではなく、コンサルティング業にも精通していたり、セミナーを開催したりした経験がある方は、「バイリンガルサービス+翻訳」という形で起業される方もおられます。



*Continuous Translation:多言語で提供されている Web プラットフォームなど、継続的に機能の追加が行われ、その都度翻訳のニーズが発生する商品に関わる翻訳サービスのこと。


法人成りのメリットとは?


では、フリーランスの方が法人成りするとどんなメリットがあるのでしょうか?


取引機会が増え、業務の幅が広がる


それなりの大手企業が翻訳の仕事を委託したいと思った場合、個人事業主で声がかかる可能性は限りなく低いです。どれだけ実力があり、信頼できる人柄の持ち主であっても、「個人」である以上、限界がある可能性が高いからです。


その点、法人であれば、マイクロ法人のように実態はフリーランスの頃とほぼ変わらないとしても、「株式会社」と付くだけで契約や支払いがスムーズに進むため、相手は安心します。また、BtoB だと取引先から「御社はこれもできますか?」と翻訳以外の分野の依頼が降ってくる場合もあり、それにうまく対応できればサービスの幅は拡がり、会社として成長できます。


チームで働ける


マイクロ法人ではチームで働く概念はないかもしれませんが、法人化することで他の翻訳者との共同もスムーズになります。個人事業主が依頼するのと、会社から依頼されるのとでは相手の心構えにも大きな違いがあることは否めないでしょう。会社とのやりとりであれば、給料の支払いや業務体制もしっかりしていると相手も考えるからです。そのため、一人でできないような業務でもメンバーを見つけやすいといえます。


例えば、帰国子女でもなければ、日本人が「日本語→英語」の翻訳案件を担当するのは至難の業ですが、法人化していることで英語ネイティブのメンバーも見つけやすく、継続的にお願いできれば、法人としてのビジネスも安定します。


リターンが大きい


機械翻訳などの影響で年々翻訳の単価は下がる傾向にありますが、法人では一般的に個人事業主より多くの売上を得ることが可能です。


法人成りのデメリットは?



法人化すると次の2つのデメリットもあることを想定しておきましょう。


経費がかかる


法人化の最大のデメリットは、経費がかかることです。会社として最低限もっていなければならないオフィス(コワーキングスペースやバーチャルオフィス含む)、Web サイト、電話回線に加えて、翻訳会社なら必要に応じて翻訳ソフトやプロジェクト管理ツールなどを購入しなければなりません。


加えて法人は社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)に加入することが義務であり、毎月の支払いは金銭的負担となってのしかかってきます。金額は年齢や報酬によって変わってきますが、例えば40歳の代表役員が30万円の役員報酬を受け取ることを前提にすると、1か月あたりの社会保険は84,600円になり、これは個人事業主(国民健康保険と国民年金)の場合と比べると月に約3万円もの違いが生じます。


ストレスが大きい


個人事業主と比べて、法人代表は毎日さまざまな決断を下さなければなりません。例え、マイクロ法人であっても銀行との取引、クライアントとのやりとりが発生します。フリーランスであっても納期まで仕事をやり終えなければならないなどストレスがあることは確かですが、法人代表は他のメンバーに委託した仕事の最終的な責任を自ら負わなければなりません。


さらにチームで仕事する場合、扱う仕事の規模も大きくなります。場合によってはメンバーの生活がかかってくるため、決断するときのストレスは増大します。


まとめ


法人成りすることには、それなりの覚悟が必要です。しかし、社会のプレイヤーとしての資格を手にして、翻訳会社であれば世界を相手にゲームに参加することができるのは何にも代えがたい充実感を与えてくれるはずです。また、業務の幅も広がり、将来に向けて、より大きなビジョンを描けるでしょう。


他方、フリーランサーはスケジュールや仕事の量などをより能動的にコントロールすることができます。経営者になることからくるプレッシャーもなく、翻訳や創作活動そのものに打ち込めます。


法人とフリーランサー、どちらも一長一短ありますが、あなたはどちらを選びますか?


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。


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