リーダーに「即断即決」は必要か?スマートなビジネス対応のための心構え

企業やプロジェクトを率いるリーダーに往々にして求められるのが「即断力」です。タイミングや流れが重要となるビジネスの場合、「社に持ち帰って検討します」といつまでも先延ばしにすることはできません。その場の状況を常に把握し、今後のことも鑑みながらすばやく、そして賢く判断を下すことが重要となります。

しかし、といっても「即断」と「反射」は紙一重。感情に突き動かされて、大局を捉えずに反射的に決断してしまっては元も子もありません。

そこで今回の記事では私たちの思考のステップに着目して、即反射とは全く違うスマートな「即断」を身に着けるヒントをご紹介します。


"It is no use crying over spilt milk".

覆水盆に返らず


古代中国を代表する軍師に太公望(たいこうぼう)という人物がいます。TV アニメ『封神演義』の登場人物としても有名ですし、歴史小説が好きな方なら一度は名前を聞いたことがあるかもしれません。

そんな彼が出世する前のある日のこと、妻が離婚を迫ってきました。理由は太公望が仕事もせずにぶらぶらしていたからです。しかし、のちに彼が出世したのをみて、その女性は復縁を迫ります。その時に太公望が言い放った言葉、それが日本でもよく知られていることわざ、「覆水盆に返らず(覆水难收 fùshuǐ nánshōu)」だったといわれています。

もともと「離婚した夫婦は元に戻ることはない」という意味だった言葉は、今ではほとんどの場合「一度起きてしまったことは取り返しがつかない」という意味で使われています。そして、SNS がコミュニケーションツールとして君臨している現代では、秒速での「いいね!」やコメントが求められ、「覆水盆に返らず」という言葉が登場する間もないほど、人々は「脊髄」で反射、つまり脊髄から脳を介して行う思考をステップしてコミュニケーションしています。

本来、あまり「良くもなかった」写真に対して「いいね!」をするくらいなら脊髄反射も許されるかもしれませんが、ビジネスコミュニケーションにおいて脊髄反射は避けたいものです。取引先を失ったり、成約しそうな案件がダメになったり、それこそまさに「覆水盆に返らず」でしょう。


「脊髄反射」を避けるには?

「あの時はつい…」はご法度


「脊髄」で反応しないということ、それは反射的なリアクションを避けるために、いったん自分の思考をきちんと介入させるということです。ただ、それは言うほど簡単なことではありません。例えば、よく親が子供に「なぜもっとよく考えなかったの?」とか、上司が新入社員に「考えれば分かるだろ!」などと言いますが、それをいわれた子供や部下が「なるほど!考えなかった自分が悪かったのか!」と腑に落ちることはまずないでしょう。なぜなら、そういわれたときの子供や部下はそもそも考え方を知らないからです。

日本 IBM 初の女性取締役に就任し、現在では同社技術顧問を務める内永ゆか子氏は、上司や同僚に言われたことに「脊髄」で反応しないためには「常に全体の中で自分の仕事の位置づけを理解すること」が必要だと言います。これは一体どういうことなのでしょうか?


考える枠組みをもつ


同氏はそれを「自分の中に枠組みをつくること」であり、例えるならタンスのどの引き出しに何を入れるかきちんと決めることに似ていると言います。タンスがあってもそうした決め事、ルールを持っていなければ中身はぐちゃぐちゃになるのと同じように、他の人から情報を与えられたときに頭の中にちゃんとした枠組みがなければ「考える」ことができないため、脊髄反射をする可能性が高くなってしまうのです。

問題はどういった枠組みを自分の中に持つのかということですが、残念ながらどの業種、ケース、案件、プロジェクトにも当てはまる絶対不変の思考枠組みのようなものはないでしょう。

ただ、参考になるのは予防医学研究者である石川善樹氏が述べている視点です。彼はまず「考える」という領域を「前例のない挑戦」と「考えつくされた領域」を両極端に据えて定義しています。この中央に位置するのが「中間領域」です。

さらにそれぞれの思考パターンとして「直観」、「大局観」、「論理」が有用であるとしています。思考の枠組みとして最も一般的なのはデータに基づいて本質を追求しようとする「論理」だと思いますが、この方法も「前例のない挑戦」や「考えつくされた領域」では必ずしも有用ではないというのが興味深い点だと言えます。


※cakes 掲載の石川善樹氏インタビュー記事「考えが浮かばないのは、「問い」が悪いせい? 考えるための3つの方法論」より画像引用


大局観でビジネスを捉える


さて、これをビジネスコミュニケーションに当てはめると、毎日のメールのやり取りやミーティングで「前例のない挑戦」をしている方はあまりいらっしゃらないと思います。おそらく 7~8 割が「考えつくされた領域」、残りが「中間領域」というところではないでしょうか?であるなら、わたしたちはほとんどの場合「大局観」でやり取りする必要がある、ということです。

そもそも、大局観とはボードゲームの対戦から生まれた言葉で、全体の形勢の良し悪しを見極めながら適格な勝負判断を行う能力のことです。

石川氏はこの「大局観」についてフランスの作家マルセル・プルーストが述べた次の言葉で言い換えられるとしています。


「本当の発見の旅とは、新たな地を探すことではなく、新たな目で見ることだ」


もうやり飽きた仕事、自分のスキルとは釣り合わないように思える案件、何度言っても同じことを繰り返す部下やクライアント、こうした毎日の中で繰り返される「考えつくされた領域」を新たな目で見ることができれば、脊髄反射を回避できて「覆水盆に返らず」と後悔するようなことは避けられるということなのです。言い尽くされた考え方ですが、結局はすべて自分次第、ということなのかもしれません。


参考文献:

https://president.jp/articles/-/2630?page=1

「仕事はうかつに始めるな」(石川善樹著/プレジデント社、2017年)


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。


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