中国成語探訪⑤~メンタルに効く癒し成語

2021年末からコロナが少し落ち着きそうな気配がありましたが、2022年が明けた今、そうした期待をあざ笑うかのように世界中でオミクロン株が急拡大しています。先行きが見えない中、私たちに必要なのは歴史の荒波を乗り越え、人々に力を与えてきた先人の知恵です。


過去の記事でも何度かご紹介しましたが、成語は中国の人々の心の支えになってきました。

そこで、2022年第1回のブログでは「メンタルに効く癒しの成語」を5つご紹介します。不穏なコロナ禍にあって、一筋の光を私たちにも与えてくれるはずです。



1.杞人忧天(Qǐrényōutiān


日本語で「杞憂(きゆう)」といえばお分かりになる方も多いでしょう。「先のことを心配し過ぎること、取り越し苦労」を意味する語ですが、その元になっているのが中国の成語「杞人忧天」です。成語の元になっているお話は以下のようなものです。


「杞」の国に住んでいたある人が天が落ちてきたり、地が崩れたりしたらどうしようと心配し、夜も眠れず、食事も喉を通らなくなっていました。そこで彼を心配する人がやってきて、「天が落ちてきても気の積み重なったものだから怪我をすることはないし、みんなが地の上を毎日歩いているのだから崩れることもない」といいます。心配していた人は「なるほど!」と彼の言葉に安心したということです。


日本語「杞憂」には「起こりもしないことを心配すること」の意味しかありませんが、この「杞人忧天」の出典である「列子」では心配し過ぎることを戒めるに留まらず、天が落ち、地が崩れないと断言することもできないため、大事なのは何が起きても状況に振り回されない無心の境地が大事だと結ばれているようです。まさに今のコロナ禍に必要な心の持ちようではないでしょうか?


2.心有余而力不足(Xīn yǒuyú ér lì bùzú


コロナ禍で人と人との繋がる機会が減り、同僚や友人に何かしてあげたくてもできない歯がゆさを感じることだってあるでしょう。その時の心境は「論語」に出てくる上の成語によって表せるかもしれません。

これは、気持ちはあるけけれども自分の実力に限界があったり、物理的に状況が許さなかったりする場合や状況を表します。相手が病気だと知って看病のためにすぐに駆け付けたい、でもお互い感染リスクがあるから控えざるを得ない、そんなときに使える成語です。



3.雪中送炭(Xuězhōngsòngtàn


新型コロナウイルスが武漢で発生したばかりのころ、日本政府は中国に対してマスクや防護服などの緊急支援物資を送りました。このニュースが中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で拡散された際にコメントに頻繁に登場したのが、この成語でした。


意味は漢字からもわかるように「雪の降る寒い中、困っている相手に炭を送る」、つまり「困っている人に助けの手を差し伸べること」をいいます。人間関係が希薄になりがちな状況が続いていますが、相手の状況に関心を払ったり、温かな気遣いを示したりする心は忘れないようにしたいものです。


4.吴越同舟(Wúyuè tóngzhōu


この語を辞書でひくと「団結してお互い助け合うこと」を意味するといわれています。ただ、この成語の由来となった「孫子」の中に載せられている物語を知ると本来の意味はちょっと違っていることが分かります。


この成語に登場する「呉」と「越」とは中国の春秋時代に存在した国の名前です。春秋時代とは、古代中国における周王朝が分裂したあと約320年に渡り、大小合わせて200以上の諸侯が割拠し、覇者を目指し争い合った期間を指します。その中の呉はいまの上海を含むエリアに、越はその南に位置していました。この2つの国は関係が悪くその戦いは38年にも及んでいましたが、もし両国の兵士が「同じ舟」に乗って川を渡ることになれば、普段のいがみ合いも忘れて互いに助け合うのではないか、そんな意味をこの成語は含んでいます。


つまり、例え仲が悪くても共通の災難に立ち向かったり、利益を追い求めるときには互いに助け合うということですが、今未曾有の危機に直面しているわたしたちすべてに当てはまる言葉だといえます。



5.欲速则不达(Yù sù zé bù dá


この成語も「論語」が出典ですが、「无欲速,无见小利。欲速,则不达,见小利,则大事不成(Wú yù sù, wú jiàn xiǎo lì. Yù sù, zé bù dá, jiàn xiǎo lì, zé dàshì bùchéng)、速やかならんを欲すればすなわち達せず、小利を見ればすなわち大事成らず」という文章の一部です。漢文が好きな方はこの文章をご覧になったことがあるかもしれません。


日本語のことわざで言い換えれば「急いては事を仕損じる」「急がば回れ」とほぼ同じ意味です。早く成果を出そうとすれば物事を成し遂げることができない、という意味です。

ただ、孔子が言おうとしたのは単に「焦って物事をしてはいけない」ということだけではありません。その本質は、物事の道理に反して目先の利益だけを求めても必ずいずれは失敗するということです。


コロナ禍で誰もが先の見えない毎日を送っていますが、目先の問題を何とかしようとして自分の良心や価値観に反してまで事を焦る必要がないことを教えてくれます。しばらくは我慢が続くとしても、道理にかなったことを続けていれば状況は好転していくことを信じる力になるのではないでしょうか?


以上5つの成語をご紹介しましたが、いずれも周りで起きている状況に振り回されずに、大事なことを見極め、心を落ち着けて毎日を過ごすための知恵を与えてくれます。

2022年、世界がどう動くかは分かりませんが、穏やかな日々を過ごせるよう生活に成語を取り入れてみてはいかがでしょうか?


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。



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