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執筆者の写真SIJIHIVE Team

実は深い翻訳業界⑬~翻訳の仕事にステータスはあるのか?



フリーランス翻訳者としての悩み。沢山あるとは思いますが、そのひとつは「自分の仕事について説明しづらい」という点かもしれません。


私を含め、翻訳やライティングを生業にしているフリーランスの方の中には、名刺の肩書きに困る、という方もいらっしゃるようです。医者や弁護士、教師、カメラマンなら職業名だけで他の説明は不要です。会社員なら仕事内容について突っ込まれることは少なく、相手の主な関心は企業名でしょう。


では、フリーランスで翻訳をしている自分って??翻訳の仕事のステータスって?


これが今回の記事のテーマです。


「翻訳家」と「翻訳者」


最初に思いつくのは「翻訳家」という肩書きです。しかし、翻訳家というと、ポール・オースターの作品の翻訳などで知られる柴田元幸氏や、グリム童話の翻訳をしている池田香代子氏などを思い浮かべます(私だけかもしれませんが…)


つまり、「音楽家」にしても「建築家」にしても「家」をつけるとかなり敷居が高くなるイメージがあり、自ら「翻訳家」と名乗るのははばかられる感じがしてしまいます。文学作品の1冊や2冊は翻訳していないと「翻訳家」とは呼べないのでは、という勝手な思い込みがあるのです。


「音楽家」を「音楽者」、「建築家」を「建築者」とはあまり呼びませんが、「翻訳家」を「翻訳者」と呼ぶこともできます。ただ、「翻訳者」を肩書きとして名刺に書くのはなんだか頼りない気がしてしまいます。「翻訳者」というと、プロジェクトにおける「プロジェクトマネージャー」や「校正者」と同じように「役割」や「分担」に過ぎない気がするからです。


頭の中にあるのは「翻訳家」と「翻訳者」の中間イメージであり、英語の「translator」なのですが、それにピッタリ合う日本語が見つかりません。



芸術を生業とする人たちは、メディア上で「アーティスト」と称されることが多いですが 自称だとどうなるのでしょう?

翻訳という仕事に対するイメージ


翻訳業の印象は「地味」「副業」が大半


弊社代表は自身が英中日の翻訳者ですが、起業する前フリーランスの翻訳者として働いていたころ、企業に勤めている友人たちから「何をやっているかよく分からない」とよく言われていたとのこと。


同じ外国語に関する仕事でも「通訳」はメディアへの露出もあり、イメージが湧きやすいのでしょう。あるいは、英語をはじめ、外国語を使って話すことにコンプレックスを持っている日本人が多いため、通訳は「華々しい」「すごい」というイメージを持ちやすいことも関係しているかもしれません。いずれにしろ、通訳に比べて、翻訳という仕事に対してほとんどの方が地味な印象を持たれているようです。


また、翻訳を「副業」と見る人も多いように感じます。バイリンガルや海外生活が長ければ高いスキルがなくても誰でもできる仕事、あるいは単純作業とみなされ、片手間にできる仕事という誤解も生まれてしまいます。そのため自分の肩書きを「翻訳者」ないしは「翻訳家」とすることにどこか肩身の狭さを感じるフリーランスの方もいらっしゃるようです。


スキルと稼ぎが比例しない場合も


「翻訳」の仕事のステータスを下げている別の原因として、機械翻訳の台頭も挙げられます。機械翻訳がプロの翻訳者のクオリティに達するのはまだまだ時間がかかりそうですが、最近はどんどん「ポストエディット」作業の需要が増えています。


「ポストエディット」とは、機械翻訳が出力した文章を「ポストエディター」と呼ばれる作業者が手を入れて、最終的に人間が翻訳したクオリティに近づける方法です。これにより、受注単価は下落、特に多くの翻訳者を抱え、効率化を重視する中国の翻訳会社ではこの傾向が顕著のようです。中国ではいくら外国語を専攻して翻訳者になったとしても、単価の低さからこれだけを生業にして生活していくのは難しいようです。



コンピューターとどううまく共存できるかは、翻訳業界に限らない課題です。

「翻訳」の仕事のステータスを上げるには?


以上、私見では「翻訳」の仕事のステータスは決して高いとはいえないように感じます。


この現状に対して「人からどう思われようと関係ない。私はこの仕事を愛しているのだから」と割り切るのも一つの方法です。


しかし、せっかく「翻訳」という仕事に就いているのだから、やってみないと分からない翻訳の難しさや楽しさについて発信するのも大事なのかも、と思っています。私自身、まだまだ駆け出しですが、翻訳とは実に奥深い仕事です。言うまでもなく、言葉は単なる文字の羅列ではなく、思いを伝える手段です。


例えば、“This book makes you smarter.”という文章があるとしましょう。本を紹介するキャッチコピーだと想像できます。


Google翻訳であれば「この本はあなたを賢くします」と訳出されますが、プロの翻訳者でこれで良しとする人はまずいないでしょう。書店でこのキャッチコピーの前に立った人が、思わず本を手に取りたくなるような訳文を考えるはずです。

この一文の背後にどのような意図があるのか、もっと言えば英語のキャッチコピーを書いた人の頭の中を覗き、それをできるだけ理解し、把握し、それが可能な限り伝わる日本語に置き換える作業は非常に高度なものです。



“This book makes you smarter.” あなたはどう訳しますか?

このように考えると、翻訳という仕事に求められるのは外国語に対する深い理解だけでなく、日本語で魅力的な文章を使って表現できる能力も含まれることが分かります。そのため、最近、コンテンツ制作に熱心な海外企業は「翻訳」だけでなく「翻訳+ライティング」ができる人材を探すところも増えてきているようです。他の欧米諸国への事業展開とは異なり、日本はまだまだ文化的にも言語的にも異色です。海外のサービスを日本に導入するにあたっては、やはり日本人のテイストに合った形で文章を書くスキルが必要になるでしょう。


弊社の場合…


冒頭で名刺の肩書きの話をしました。私個人は「翻訳者」だとなんだか物足りない、「翻訳家」だと恐れ多い、などとあれこれ考えてしまいます。


弊社としては、あえて専門性の高い内容や、クリエィティブ翻訳が必要になる分野を専門とし、翻訳の先にある「言葉を相手の心に届ける」サービスを目指し、「翻訳」に対する対外意識を少しでもポジティブに変えていけたらと考えています。



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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。




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