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実は深い翻訳業界⑫~毎日がカオス!翻訳プロジェクトの苦い現実

更新日:2022年5月29日



「実は深い翻訳業界」の第11回では翻訳業界の司令塔ともいうべきプロジェクトマネージャーの役割について取り上げました。PM を含め、メンバーそれぞれが自分の役割について深く理解し、持ち場を守ろうとしているプロジェクトに参加できるのはとても気持ちのよいものです。ストレスは軽くなり、モチベーションや生産性はアップします。


しかし、残念ながら毎回のプロジェクトがいつもそんなにスムーズにいく訳ではありません。今回は「翻訳者泣かせ」のプロジェクトの苦い現実を6つご紹介し、「苦い現実」を少しでも緩和するための処方箋について考えてみたいと思います。



翻訳プロジェクトはチームプレー


翻訳者の方なら誰もが認める点だと思いますが、翻訳作業は孤独です。適切な訳文をひねり出すために何時間も頭を抱えたり、そのために調査をしたり、時にはデスクを離れても心は翻訳から離れられなかったりします。


それでも「これだ!」という訳文がひらめいたり、自分でも納得できる質の高い翻訳をきちんと納期までにやり遂げられたり、クライアントに評価してもらえたりしたときに「報われた!」と感じるのではないでしょうか。


その孤独な作業の最初から最後まで PM が伴走して、絶妙なタイミングでサポートしてくれたり、ねぎらいの言葉をかけてくれたりすると、高いモチベーションを維持しながら作業を続けられます。


しかし、逆に以下にあげるようなシチュエーションでは、最初から躓いてしまいそうになることも…



1.「とりあえず翻訳してください」


全体の一部だけを抜き出す形で翻訳依頼がかかる場合によくある事態です。

特に多いのがアプリの UI 翻訳などの案件で、単語の意味は分かるのですがどのような文脈(コンテキスト)に含まれているかが全く想像できない場合もあり、翻訳者としては実に消化不良。どこか気持ちの悪い感覚を抱えながら仕事を進めることになります。


そのため「文脈を教えてほしい」と PM に再度質問することになりますが、多くの場合、PM 自身もエンドクライアントからこれ以上の情報を知らされていないため返答が得られません。


このように、小さなセクションに単語が配置されたアプリは要注意。 単語自体は簡単でも、いざ翻訳して画面上で見てみると おかしくなってしまうこともあります。翻訳する人の経験とセンスが光る部分です。


2.「50ワードだけなので今やって」


PM 側としては量が少ないためすぐにやってくれると思っているのかもしれません。ただ、内容にもよりますが、量が少なければすぐに翻訳できるという訳でもありません。50ワードで完結している文章であればよいですが、文脈がよく分からないものもあります。


そうなると、50ワードを翻訳するために結局300ワードを訳すのと同じくらいの調査量や労力が求められる場合も。


翻訳者としては「少ない量だから大したお金にならない」ことに不満があるというよりも、「現場の大変さが分かってもらえていない」ことに歯がゆさを感じてしまいます。



3.「今日中にお願いします」


これまで「実は深い翻訳業界」シリーズでお伝えしてきたように、発注側としても抜き差しならぬ状態は生じえます。つまり、エンドクライアントがすぐにでも納品してほしいと言ってきている場合に、翻訳者に対して余裕のある発注ができないことは生じるものです。(実際、弊社でもやってしまう依頼です…)


ただ、翻訳者には翻訳者のスケジュールがあり、「今日はこの案件をやろう」と予定を立てていたころに「今日中にお願いします」というメールが飛び込んできても、対応が難しいことの方が多いでしょう。


翻訳者としてはそもそもリソースが限られていて対応不能という場合もあるでしょうし、やれるのはやれるけど、クオリティが心配ということもあります。クオリティを担保しながらやれる翻訳量は人それぞれだと思いますが、英語原文であれば1,500〜2,000ワード、多い人でも3,000ワード程度だといわれています。



つくづく思いますが、翻訳会社は常に緊急の事態に備えなければならないことが多いのです…

4.「空いている人がいれば返信お願いします」


最近はずいぶん少なくなりましたが、たまに PM から複数の翻訳者に対して一斉送信の形で依頼メールが来ることがあります。仕事がなくて「藁でもつかみたい」という状況なら大変ありがたいメールかもしれませんが、裏を返せば「翻訳者の仕事のクオリティは問わない。誰でもいいから返信ください」といわれているようなもの。翻訳者の強みや特性を理解して案件を割り振るのも PM のマネジメント能力の一部だと考えると、やや乱暴なやり方だと言わざるを得ません。



5. 断っても依頼される


これは決して、仕事のクオリティの高さゆえに「あなたにやってほしい」と依頼されているのではありません。理由は翻訳会社の単なるリソース不足です。PM はエンドクライアントからプレッシャーをかけられているため、とにかくプロジェクトを完遂し納品しなければなりません。そこでとにかく空いている人手をかき集めようという訳です。


断っても繰り返し依頼されると、翻訳者としても「じゃあ、やります…」とならざるを得ません。しかし、依頼を受けたはいいものの、今度は自分のスケジュールに余裕がなくなってしまいます。それが一度や二度なら仕方のないでしょうが、常態化しているようであるなら、マネジメント側にも根本的な解決策が必要なのかもしれません。



6. 「???」


そもそも依頼内容が明確でない場合も多々あります。これは、依頼する側の PM 自身がその内容についてはっきりと理解していないことに原因があります。そのため、不明確な点について翻訳者の方から質問しても要を得ない回答が繰り返され、依頼の全体像がつかめません。

往々にして PM が忙しすぎて自分の仕事もマネジメントできていない場合があるため、返信も遅れがち。いつまで経っても案件に着手できず、返信が遅くても納期は延びないので翻訳者としてはイライラが募ることになります。



リーダーシップを発揮し、マネジメントしよう


この記事の意図は「残念な PM さん」を類型化して、翻訳者の「あるある!」「やめてほしいよね~」という共感を引き出そうということではありません。実際、上述した「苦い現実」が生まれるのは PM だけの責任ではなく、エンドクライアントの無茶ぶりや、翻訳業界自体の特性も関係しています。さらに翻訳者側のマネジメント力やコミュニケーション力によって問題が改善されることだってあります。


お伝えしたいのは、プロジェクトに関わるすべての関係者がもっと「マネジメント」について考えてみる必要性があるということです。プロジェクトをマネジメントするのは何も PM だけではないはずだからです。



こんな穏やかな顔でスーパーマルチタスクできればいいんだけど…ね。

マネジメントと一緒にされがちなものにリーダーシップがあります。マネジメントやリーダーシップについて深く研究した有名な経営学者ドラッカーはそれら2つの違いについて次のように定義しました。


「マネジメントとは物事を正しく行うことであり、リーダーシップとは正しいことを行うことである(Management is doing things right, leadership is doing the right things.)」

ドラッカーによるとリーダーシップは特定の人に備わった資質ではなく「仕事」です。つまり、誰もがリーダーシップを発揮し、自分の仕事をマネジメントできるということであり、そうすべきだということです。


先回の記事でも PM には「人間力」が求められると書きましたが、単にプロジェクトを「正しく」行おうとするのではなく、リーダーシップを発揮して「正しいこと」をしようする姿勢が大切です。もちろん、それは翻訳者にしても同じことであり、言われたことを受け身でやるだけでなく、でしゃばることはしませんが、プロジェクト全体を成功させようという主体性を発揮する必要があります。それが誰もが発揮できるリーダーシップといえるでしょう。


エンドクライアントにあれこれ要求することはできないとしても、まずは PM と翻訳者が一体となってリーダーシップを発揮し、マネジメントすることを学んでいけば、翻訳プロジェクトの苦い現実が少し変わってくるかもしれません。


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。




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