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日本人泣かせの中国語発音



日本人がいう「中国語」は、中国では「汉语(Hànyǔ)」といいます。「汉(Hàn)」とは「漢」のことで、全人口の92%を占めるとされる漢民族の共通語を指します。


私は中国に行く前、いわゆる「中国語」が話せれば中国のどこにいっても14億の中国人とコミュニケーションがとれると思い込んでいました。ところが実際に行ってみると、私がいた四川省、湖南省、浙江省のどこででも年配の方々はかなりの割合で「中国語」が話せず、いわゆる「方言」を話します。

また、若い人を含め、地方によって「中国語」を話せても地方独特のイントネーションや発音の影響を受けているため、リスニング教材に登場するような「中国語」を話す方ばかりではありませんでした。


今日のタイトルがいうところの「中国語」はもちろん中国で話されている方言のことではなく、「汉语」もしくは「標準中国語(普通话=Pǔtōnghuà)」のことを指します。「泣かせ」といっても、多くの方言が話されている中国大陸ですから、「日本人訛りの中国語」を話していてもすぐに外国人だと分からない(もしくは直接突っ込まれない)ことも多々あります。


ここでは、そんな中国の方言事情について少し触れ、日本人にとって発音が難しいとされる中国語の発音について、またその発音を上手に話せないからといって落ち込む必要がない理由について説明します。


中国の方言事情


中国の方言は大きく分けて8つあるとされています。いわゆる「八大中国方言」は以下の通りです。


(中国方言八大语系是什么?)


中国での学校教育は基本的にどこでも「標準中国語」を使用して授業が行われているため、若い世代は自分の方言に加えて、標準中国語を話せます。


上図の分類はかなり大まかなもので、各方言の中でも数えきれないほどの種類が存在します。例えば、私が住んだことのある湖南省は方言が多い地域として知られており、どれも「湘方言」にグルーピングされるはずですが、山のこちら側とあちら側でお互い何を言っているか分からないという話もよく聞きました。


日本人泣かせの中国語発音



日本人泣かせの(標準)中国語発音のうち、特に難しいと思えるものを3つ取り上げます。


①そり舌音(ch、zh、sh、r)


そり舌音がどんな発音なのか、どのようにすればきれいに発音できるようになるのかについてはネット上にもたくさんの動画が上がっていますので、ここでは触れません。


母音である「ch、zh、sh、r」に子音を組み合わせることで音になりますが、この発音が悩ましいのは、きちんと舌をそらせないと別の母音である「c、z、s、l」と区別が付かなくなってしまうということです。

例えば、そり舌音である「zhi」とそり舌音でない「zi」を何とか日本語の音で表そうとすると「ズ」ですが、この2つの音をきちんと分けて発音しないと別の単語として勘違いされる危険性があります。


そり舌音について、中国語を学ぶほとんどの日本人にとってつまづく最初の関門はおそらく「日本人」という単語でしょう。

「わたしは日本人です(我是日本人=Wǒ shì rìběn rén)」という、日本人であれば絶対に覚えなければならない、非常にシンプルな文章にそり舌音が3つ(shi、ri、re)も入っています。もし、これをカタカナで表記するとしたら「ウォー/シー/リーベンレン」ですが、特にこの「リー」は曲者。イーのようで、ルィーのようで、慣れなければ何とも出しづらい音です。そのまま言っても、おそらく何度も聴き返されることになるでしょう。(ちなみに「日本語」を意味する「日语(Rìyǔ)」も発音の難易度が高い単語です…)


②鼻音(ng,n)


そり舌音はそもそも日本語にない発音であるのに対して、鼻音は日本人が普段その違い(ngとnの違い)を意識していないため難しいと言われています。例えば、中国語の「an」と「ang」という音は、日本語の「案内」と「案外」の「アン」という音に相当します。

実際に発音してみると分かりますが、「案内」の「アン」は舌が上の歯茎にくっつきますが、「案外」の「アン」は音が喉から頭に抜けるような感じがします。


中国語では発音に「g」があるかないかで単語の意味が大きく変わります。例えば、「金魚」の発音は「Jīnyú」で「g」がありませんが、クジラ(鲸鱼)は「Jīngyú」で「g」が付きます。どちらもカタカナで表すと「ジン/ユー」ですが、「私は金魚を飼っています」と言おうとして「クジラを飼っています」と勘違いされたら大変です…。


言われてみるとそうだな、と思うのですが、実際に会話の中でこの両者をきちんと区別しながら話すのは日本人にとってとても難しいです。ですから、あまり「ピンイン(中国語の発音記号)」に振り回されず、できるだけ耳で何度も聞くことが大事なのかもしれません。


③母音の「e」


「e」というアルファベットを、ローマ字を学んでいる日本人が見るとすぐに「エ」と発音してしまいますが、中国語の「e」は全く異なった音です。無理やりカタカナで表そうとすると「オ」と「ウ」の間のような音。使っている筋肉は喉の奥です。


私自身、中国語を学び始めたばかりのころ、この音がなかなか出せずに中国人の友達に発音するたびにダメ出しされていた記憶があります…。


日本人がうまく発音できなくてもがっかりしなくても良い理由



上に挙げた3つの発音をはじめ、日本人には難しい発音が他にもあり、うまく発音できないとがっかりする人もいるかもしれません。しかし、上述したように中国には多くの方言があり、中国人でも自分の生まれた方言の影響から逃れるのは困難で、かならずその地域独特の「口音(Kǒuyīn)=アクセント」があるといわれています。


例えば、標準中国語は北方語をもとにしているため、南方に住む中国人、特に湖南省に住む中国人が話す中国語は「塑料普通话(Sùliào pǔtōnghuà)」と呼ばれます。「塑料(Sùliào)」は「プラスチック」のことですが、その意味は「不自然、ぎこちない」中国語ということのようです。その特徴の1つは上述した「n」と「ng」の区別がはっきりしないことと言われています。


※1 字幕はありませんが、興味のある方はこちらも参照してください。湖南省長沙生まれのカップルが「普通话」と「塑料普通话」の違いを説明しています。


※2 「塑料普通话(Sùliào pǔtōnghuà)」は決して南方出身の中国の方を見下す表現ではありませんが、外国人である私たちが中国の方に対して使う時には注意が必要でしょう。


このように、中国人であっても、いわゆる「標準中国語」を完璧に話すことは難しいのですから、まして外国人である私たちはもっと肩の力を抜いてよいのではないでしょうか。


これは中国語に限らず英語だってそうです。「英語」というくらいですからブリティッシュ・イングリッシュが正統という見方もあるかもしれません。しかし、これだけ話者がいて、さまざまな場所で話されているのですから、もはや「どこの」、「どの」英語が「標準」か分かりませんし、それを決める必要もないのかもしれません。


「言語はコミュニケーションツールなんだから通じればよい」というのはやや乱暴ですが、相手に対する敬意を持ちながら使う中国語は「日本語訛り」があっても、相手に心地よく聞こえるはずです。




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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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