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【初日レポ】異国で息づく日本の色彩美。台北版・動き出す浮世絵展に行ってきた

台北版・動き出す浮世絵展

2025年7月5日、台北で幕を開けた「動き出す浮世絵展 TAIPEI會動的浮世繪展-日本藝術絕代之華)」。


日本各地でも同時開催の注目の展覧会が満を持して台湾に上陸するということで、お話をいただき東京から台北へ1泊2日の弾丸旅を決行。初日の午後に訪れ、短期間ながら台北のアートシーンと街にあふれる日本のエッセンスと夜の街(😊)を堪能して帰ってきました。


日本の伝統文化である「浮世絵」が、国境を越えてどのように受け入れられているのか。


会場で感性を刺激されっぱなしの2時間、なるべくネタバレにならないように写真は気持ち控えめ、描写多めで、現地の空気感とともにお届けします。※台北滞在中に執筆



台北版「動き出す浮世絵展」


今回の展覧会が開かれているのは、台北市中心部にある松山文創園区(旧松山煙草工場)。MRT「国父紀念館(Sun Yat-Sen Memorial Hall)」駅から徒歩数分で到着します。1930年代に日本統治時代の製煙工場として建てられたこの建物群は、現在では台湾を代表する文化・クリエイティブ拠点のひとつとして多くの人が訪れる場所。


中でも「一号倉庫」は天井高く広々とした空間が特徴で、浮世絵という伝統的な日本文化とこの地区の持つ歴史的な空気感が良い形で融合していました。


台北市中心部にある松山文創園区(旧松山煙草工場)

台北市中心部にある松山文創園区(旧松山煙草工場)
台北も30度超えで南国気分!

私が訪れたのは初日の14時半ごろ。すでに会場の外には入場を待つ人の列ができていましたが、流れはスムーズで5分ほどで中へ。事前にオンラインでチケットを手配していたため、受付で QR コードを提示し、手の甲にスタンプを押してもらって入場。パンフレットやグッズ付きチケットを購入した場合は受付で名刺サイズのカードがもらえるので、最後にミュージアムショップのレジでそれを提示して品物と引き換えます。


会場内は複数のテーマゾーンで構成されており、2時間弱の滞在でも足りないくらいの充実度!


動き出す浮世絵展 TAIPEI(會動的浮世繪展-日本藝術絕代之華)
軽やかに「浮」かぶ主題が迎えてくれる。

浮世絵とは:無常を描く美


「浮世(=憂き世)」とは、儚く、うつろいゆく世界。どこか、無常観と遊び心が共存した厭うべき現世という意味で使われます。


浮世絵はこの現世、つまり今の世の中でみられる風俗を描いた芸術として江戸時代に発祥したものです。流動的な世間の様子や民衆の生活など、絵として切り取られたワンシーンであってもその中には歴史と物語があり、いい意味で人間らしい作品が多いのが特徴です。


浮世(憂き世)の説明書き
今日ぐらい、この世の憂いに浸ってみようか。

会場内の解説は中国語と英語(一部)の二言語構成。もちろん今回は台湾の方々が多く来場されていましたが、みな最初のゾーンから説明を丁寧に読みながら展示と向き合っている様子が印象的でした。台湾は日本よりはやく夏休みに入るため、今回は学生さんらしき若い方々も多数。富士山をテーマにした浮世絵はやはり人気で、飾られた原画を前に真剣に議論を交わしている美大生らしき二人組もいました。


浮世絵は「知っているようで知らない」ジャンル。だからこそ、こうした海外での展示が異文化とその土地の方々との新しい出会いを生んでいるのだと実感します。


浮世絵制作に使う道具たち

浮世絵は「版画」の一種で、絵を描く人、それを彫る人、擦る人など複数の人の手と工程を経て技術を重ねながら一枚の絵が完成します。


会場内には浮世絵の段階的なプロセスを再現できるスタンプラリーも設置されており、ただ観るだけではなく来場者の体験を促すさまざまな仕掛けが見受けられました。

一枚のはがきを使ってその上に何度もスタンプを重ねて押していき、最後に一つの絵を完成させるというまさに浮世絵のプロセスをたどれる仕掛け。私はスタンプをひとつ見落としてしまい何かの色が抜けてしまったが…


浮世絵制作の過程を体験できるスタンプラリー
うーん。どこかの色が足りないらしい。

スタンプラリーに並ぶ長蛇の列
スタンプラリーには長蛇の列。

日本が誇る浮世絵の巨匠たち


私が職業柄、見逃せなかったのが日本浮世絵界の巨匠たちの紹介コーナー。東洲斎写楽、喜多川歌麿、歌川国貞、歌川国芳、歌川広重、葛飾北斎の6名について中国語で説明がなされているのですが、中国語訳された彼らの肩書きが興味深い!


謎様畫師(謎多き画師)、孤高畫師(そのまま。孤高の画師)、才氣實力派(才能あふれる実力派)、浮世繪的革新者(浮世絵界のイノベーター)、その他「巨匠」、「天才浮世絵師」、などなど形容詞がついているんだけど、翻訳した方難しかっただろうなぁ…でもきっと楽しかっただろうなぁ。


6人とも天才だから、一つの形容詞じゃ語り切れないだろうに。こうした言葉選びのセンスはどれだけ経験を積んでも初心に帰って磨き続けていきたいものです。


日本が誇る浮世絵の巨匠たち

まさに風流、極彩色の花鳥風月の世界観


この展覧会が「動き出す」と題されている理由。それは、映像と空間の演出にあります。


壁と空間スペースを最大限に活用した展示は圧巻の一言。各ゾーンからはカーテンをくぐって次の順路に進む構造。カーテンも空間の壁と一体化して全体に同じデザインが施されているため、まるで秘密の部屋に迷い込むような極彩色の没入感が味わえます。


次の順路に進むカーテン
おわかりだろうか?中央奥にはためくのが次の順路への入口。

それぞれの部屋の構成もまったく違い、上流から優雅に流れ落ちる滝のシーンは天井が高く細長い部屋、豪快な波のシーンは横に広がるだだっ広い空間。カーテンを抜けるたびに出会う別世界、常に「次は何が来るのか」と全身の脈動が止まりません。


もはや浮世絵?海の世界?
ねえ、私、浮世絵を観に来たんだよね今日?

プロジェクションマッピングで自分や隣の人の肌に浮世絵が映っているのもまた会場との一体感。視覚だけでなく身体全体で「動く浮世絵」を体感できます。


肌に移りこむプロジェクションマッピング
もはや来場者もプロジェクションの一部。そこにいるすべてが一体になる。

一部のゾーンにはテーマである漢字一文字が立体造形で壁に飾られているのですが、もうその構えの美しいこと。これは折に触れて思うことではありますが、「漢字の国に生まれてよかった」と改めて感じてしまいました。


「眺」ゾーンの立体造形
曲線美はなぜこうも見目麗しいんだ?

五感以上で感じる、インスピレーションの針山



「動き出す浮世絵展」は、まさに五感を揺さぶる展覧会。


たとえば、「豪(Heroes)」のゾーンは強さを表現するため、雷のようなバシバシッとしたタイミングでライトが光る仕掛け。 


流れる、光る、移り変わる、ゆらぐ、消える、湧き上がる、降る。動く映像だからこそ表現できる美。今回のテーマでもある「動く」展覧会を肌で感じることができる場。


私はときに物書きの仕事をしていていつも感じるのですが、文字表現と映像表現の差はまさにここにある。映像の洗礼を浴びて身体全体で感じるものに呼応して、脳内でインスピレーションが溢れて止まらない。何か表現したくてたまらない。そんな創造(妄想?)のジレンマと闘い続け、毎部屋毎部屋うずうずしっぱなしの2時間でした。


富士山の頂から桜が流れ落ちる幻想的な風景

今日ばかりは言葉を手放して、映像美に身をゆだねる。

ゾーンによっては壁の前に座り込んで眺めることができたり、日本のお茶屋さんのような赤いベンチに座って古都にタイムスリップしたような気分になったり、それぞれの空間演出に心がほどけていきます。


輪投げや磁石での魚釣りなど、昭和世代には懐かしいおもちゃも。日本の玩具で台湾の大人たちが遊ぶ様子は見ていてほっこりしました。


磁石で遊ぶ魚釣り
釣れたよっ!

おわりに:海を越えて浮世の美に出会う


異国で出会う日本文化は、少し違って見える。


それは距離のせいか、視点のせいか。

確かなのは、そこに「再発見」があるということ。


今回は台湾で日本芸術に触れるという体験をして、自分のライフワークでもある異文化研究においてもまた新たな気づきがありました。


浮世絵の動きを通じて感じるものは十人十色でしょうが、この体験は浮世ならぬ今生きる世界のゆらぎと自分自身を見つめ返すきっかけになるかもしれません。


「動き出す浮世絵展 TAIPEI」は今年10月初旬まで開催です。機会があればぜひ、足を運んでみてはいかが?


展覧会情報(2025年7月現在)


動き出す浮世絵展 TAIPEI


会期:2025年7月5日(土)〜 10月6日(月)10:00~18:00(最終入場17:00)

会場:松山文創園区(旧松山煙草工場)一号倉庫

チケット:Webチケットまたは会場窓口にて購入可(パンフレット・各種イベント参加付きチケットあり)



「動き出す浮世絵展 TAIPEI」パンフレット
パンフレット入手しました!ミュージアムショップで買ったエコバッグも可愛い。

著者プロフィール


SATOKO SHIMOOKA


SIJIHIVE 代表、異文化コミュニケーションの専門家。「異文化を、いい文化へ」をモットーに社会通念とは何かを考える日々。日々の笑いと旅とアートと、丁寧に作られたワインをこよなく愛しています。



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