春から続く外出自粛、オフィス街はそこそこ賑わっているように見えますが、まだまだテレワークをしている方も多いのではないでしょうか。
さて、そこでいきなり質問です。
テレワークでオンライン会議もなく、朝から晩まで誰からも見られることがなければ、皆さんはどんな服を着ますか?スーツやジャケットなどで「正装」するのでしょうか?
人は見た目が 9 割?
弊社の場合、翻訳はほぼオンラインビジネスということもあり当初から完全テレワークを実施しています。ローカライズチームの服装は十人十色。テレビ会議で顔を合わせると、シャツとネクタイでキメているメンバーもいれば、スポーツウェアで仕事している人も…!
あるアパレルブランドが 822 人の女性を対象に行ったテレワークの服装に関する調査によると、「朝から会議に適した服を着る」と答えた人は 40 %、「会議の前に着替える」と答えた人は 32 %だったそうです。また、オンライン会議の服装は「上だけきちんとする」との回答が約半数で、在宅で働く多くの女性が相手の感じ方に配慮していることが伝わってきます。
また、特に誰とも会わないけど朝起きたらメイクが日課、という方もいらっしゃることでしょう。
さて、そこで先ほどの質問の答えを探ってみましょう。
誰からも見られることがないのに着替える服と言えば「パジャマ」を思い浮かべるかもしれません。
ワコールが全国の 20~40 歳代の男女 1,029 人に行った「寝るときの服装」に関するアンケート(2012 年実施)によると、夏では「Tシャツと短パン」が 60 %だったのに対して、「パジャマ」と答えた人は 22.7 %だったそうです。個人的な感覚からしても、父や母、祖父や祖母の世代と比べて、寝る専用の「パジャマ」や「浴衣」に着替える人はどんどん少なくなってきている感じがします。
興味深いことに、パジャマを着た方が寝つきが速く、夜中に目覚める回数が減るというデータがあります。
その理由はパジャマが発汗や寝返りを助けてくれるという点に加えて、もう一つあると言われています。それは、パジャマを着ることによって起きている時間と寝る時間を区切って、「寝るモード」に切り替えることができるからだそうです。つまり、パジャマに着替えることが入眠するための「儀式」になっているのです。
誰が見ている訳でなくても、入眠するために儀式が必要なのであれば、覚醒して仕事を始める前に正装するのにも合理性がありそうです。
「服を着る」という行動で脳をセットする
ジェームズ・ランゲという心理学者が提唱した理論に「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだ」という視点があります。通常、私たちは「外からの刺激により感情が呼び起こされ、それが何らかの身体反応を引き起こす」と思い込んでいますが、ランゲは逆に「身体反応につじつまを合わせるために感情が呼び起こされる」と考えたのです。
このランゲの理論が正しいとするなら、寝る前にパジャマを着ることも、仕事前に正装することもすっと腑に落ちます。感情を整えるためには、その向けたい方向に合わせてアクションを起こせば良いということです。よく言われるように私たちの脳は思ったより単純なので、感情が服装についてくるのです。
「パジャマを着るのも、正装するのも面倒くさいから、どの時間帯も部屋着で十分」という方もおられるでしょう。確かに一見すると時間もエネルギーも節約できるように思います。しかし、脳からしてみれば、覚醒すべき時とリラックスすべき時の区別がつかないため絶えずアイドリング状態に。結果的に仕事も休息も中途半端になってしまいかねません。
日本文化には茶道、華道などの伝統文化がありますが、どれも「考えること」よりもまずは「型にそって丁寧に行う」ことが重視されます。頭ではなく体に覚えさせるというこの手法を考えてみると、昔の人はすでに脳のつくりについて知っていたのでは?とふと驚かされます。
現代の慌ただしい生活で私たちは生活の中からどんどん「型」や「儀式」を排除しようとしています。こうすることで自分の持つリソースを最大限に活用できると信じて「無駄」を省き、さらなるスピードを求めてしまうのですが…結果的に手元に残った時間は薄っぺらく、そこから深い満足感を得ることも難しくなってきます。
テレワークによって私たちは以前よりも時間やエネルギーを自分の手に取り戻すことができました。正装して仕事を始めるかどうかは別にして、日常生活の中に「儀式」や「型」を取り入れるのは自分なりのリズムや習慣をつくる良い方法です。
これまでラフな服で過ごしてきた人は、たとえば「毎週月・水はシャツを着る」ぐらいからはじめてみると良いかもしれません。在宅勤務が続く中、もっと豊かで効率的な時間を過ごすために、毎日・毎週の小さなルールを決めてみませんか?
参考資料:
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著者プロフィール
YOSHINARI KAWAI
2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、その後約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。現在はアフリカのガーナ在住、英語と地元の言語トゥイ語と日々格闘中。
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