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実は深い翻訳業界㊼~ AI 全盛時代の翻訳ニーズとは?2025年の注目トレンドを解説


翻訳業界はいま、歴史的ともいえる大きな変革の渦中にあります。背景にあるのは、生成 AI 翻訳技術の急速な進化や、越境 EC・インバウンド需要の回復による多言語対応ニーズの拡大、さらに動画・SNS といった新たな情報伝達手段の普及です。

こうした変化の中で、2025年の翻訳業界を見通すうえで特に注目すべき視点が以下の3つです。


  • AI との共存・競合関係

  • 注目される言語と需要のシフト

  • 翻訳ニーズが拡大する新分野


本記事ではこれらのテーマを軸に、現役翻訳者や翻訳会社が今後どのような対応を求められるのかを、具体的かつわかりやすく解説していきます。



AI と翻訳者:共存か、競合か?

モダンなオフィスで、人間とロボットが互いにノートパソコンを前に座り合う、共存を象徴するシーン

翻訳支援ツール(CAT ツール)や AI 翻訳の進化


2025年現在、AI 翻訳の精度は年々向上しており、とくに ChatGPT Sidebar や DeepL といったニューラル機械翻訳(NMT)は、日常会話レベルではほとんど違和感のない品質を実現しています。また、翻訳支援ツール(CAT ツール / Computer Aided Translation)との統合も進み、プロの翻訳者が AI を業務に組み込むケースも増加しています。


たとえば Trados や MemoQ などの CAT ツールでは、AI 翻訳を下訳として取り込み、その後人間が仕上げる「ポストエディット」の手法が一般化しつつあります。一時期は翻訳者さんへの仕事の依頼が「翻訳」から「ポストエディット」へと変更されるという流れが横行し、それに伴いレートも下がるという負のスパイラルも発生したため頭を悩ませた方もいらっしゃったと思います。このように、AI と翻訳者が分業的に協働するスタイルが今後さらに進んでいくと考えられるでしょう。


自動翻訳の限界と、人間翻訳の価値


とはいえ、AI 翻訳にも限界はあります。文脈の深い理解やニュアンスの調整、文化的背景の反映、そしてユーモアや皮肉の表現など、繊細な対応が求められる場面では、いまなお人間の翻訳者が欠かせません。


たとえばメディア関連のコンテンツ、広告コピー、映画の字幕など、「どう伝えるか」「ブランドらしさが出ているか」が結果を左右するケースでは、機械翻訳をかなりベースにできる時代になったとはいえ、それのみで対応するのはまだ非常に困難です。特に企業やブランドのコミュニケーションに即した「〇〇風の」コンテンツ作成は業務や語り口に精通した経験が一番生きる部分であり、やはり人間が「それらしい」と感じるものでなければ通用しないことが大きな理由だと考えられます。


プロ翻訳者が身につけたい「AI 時代のスキル」


これからの翻訳者に求められるのは「AI 翻訳では代替できない付加価値」を生み出す力です。そのためには、以下のようなスキルがますます重要になってきます。


  • ポストエディット技術(MTPE)

  • 訳文の品質管理スキル(レビュー・校正)

  • 専門性に裏打ちされた深い知識

  • 機械翻訳の「クセ」を見抜くリテラシー


AI と競い合うのではなく、「AI を使いこなす翻訳者」こそが、これからの市場で必要とされる存在となるでしょう。



今、翻訳業界で注目される言語とは?

タイポグラフィが強調されたスタイリッシュなデザインの世界地図。国名や地名がグラフィカルに配置されている

グローバル市場で存在感を増す「新・主要言語」


これまで翻訳業界の中心は英語でしたが、近年では中国語、スペイン語、アラビア語、ベトナム語といった新興市場向けの翻訳需要が急速に拡大しています。特に、ASEAN 諸国との経済連携が進む日本では、インドネシア語、タイ語、マレー語といった地域言語の重要性も高まりつつあります。


いまや多言語化対応は、単なるコストではなく、「成長市場へのパスポート」としての役割を持ち始めているのです。


日本国内で求められる多言語対応とは


訪日外国人や在留外国人の増加にともない、日本国内でも「多言語翻訳」の重要性はますます高まっています。観光案内や自治体の多言語広報、医療機関や教育機関における言語支援など、英語以外の言語への対応が当たり前になりつつあるのが現状です。たとえば、自治体の家庭支援センターなどでは国際結婚世帯の増加などにより、外国語での会話が必要となる場合にタブレット端末を使用したり、通訳・翻訳サービスを使用することが増えてきています。ハローワークの窓口にも外国籍の方が多く訪れるため、英語対応ができる担当者のところに物凄い列が発生(!)という現象も起こっているとか。


とくに、災害時や公共インフラに関わる翻訳は、その正確性が命に関わるケースもあり、社会的にも極めて重要な役割を果たします。また、外国人犯罪が増える中、証拠資料を翻訳する人員や、取り調べなどに立ち会う「通訳人」の確保も課題になっています。


「英語+α」が翻訳者の武器になる時代へ


「英語ができれば十分」という時代は、すでに終わりを迎えつつあります。現在では「英語+中国語」「英語+スペイン語」など、複数言語を扱える翻訳者が、より高い報酬と信頼を得る傾向にあります。今後は、“希少言語×専門分野”の掛け合わせが、翻訳者としての大きな強みとなるでしょう(余談ですが、以前は贛、客家、ウイグル語など、中国大陸の各所方言を扱えますか?というお問い合わせをいただいたこともありました)。



拡大する翻訳ニーズ、注目の新分野とは?

多言語学習をテーマに、本を読む笑顔の女性と、その周囲に重ねて表示されたスマホアプリのインターフェース

動画視聴のグローバル化が生む「字幕翻訳市場」


YouTube や Netflix、e ラーニングプラットフォームなどの普及により、動画コンテンツの多言語対応が急速に進んでいます。これに伴い、「字幕翻訳」や「吹き替え翻訳」といった分野も大きく成長しています。


これからの翻訳者には「多言語対応が求められる」と述べましたが、映像分野においてもその傾向は顕著です。中でも、韓国語コンテンツの人気は依然として高く、グローバルな映像翻訳需要を牽引する存在となっています。もともと英語が主流だった映像翻訳業界においても、最近では英・韓・中のバリエーションに枝分かれし、「韓国語字幕翻訳専門」「中国語のゲーム解説動画の翻訳」などと特化した形でお仕事をされている方々をよくお見受けするようになりました。


字幕翻訳には、言葉の長さ・リズム・映像との同期といった独自の配慮が必要であり、高度なスキルが求められます。さらに、台本のないリアルな会話をそのまま自然に訳す力も必要です。字幕翻訳についてはこちらの記事でも解説していますのでぜひご覧ください。


EC・観光・教育分野で求められる多言語対応


越境 EC の拡大にともない、商品説明・レビュー・カスタマーサポートなどの多言語化は今や必須となっています。一方、観光業では地域の魅力や文化を多言語で伝える「ローカライズ」の重要性が高まっています。さらに教育分野では、留学生の増加にともなう学習支援の一環として、翻訳需要が年々増加しています。


医療・法律・教育…専門知識が活きる場が広がっている


法務、医療、金融、教育など、高度な専門性が求められる分野では、AI 翻訳だけでは対応しきれないケースが多く存在します。中でも医療翻訳(特に治験関連)は、バイオテクノロジーの急成長とともに、今後も成長が見込まれる注目分野の1つです。臨床試験を専門とする知人の翻訳者さんも、「今は他のお仕事を受けられないほど!」と仰っていたのが頭に残っています。


これらの領域では「専門用語の正確な取り扱い」や「リスクを回避するための細やかな表現調整」が求められます。そのため、実務経験が豊富な翻訳者の存在価値は今後ますます高まるでしょう。



これからの翻訳者に求められる力とは?

ネオンが輝く近未来の都市を背景に、デスクで複数の仮想ウィンドウを操作する男性の後ろ姿

テクノロジーと共に進化するプロの翻訳力


現代の翻訳者に求められるのは、外国語の習熟度や日本語表現力だけではありません。AI ツールを使いこなすテクノロジーリテラシー、翻訳の質を支えるレビュー・校正スキル、そして文脈に応じた柔軟な表現力など、複合的なスキルセットが求められる時代になっています。


調査力・リサーチ力が翻訳の精度を高める


分野ごとに異なる用語や言い回し、業界独特の表現を正確に反映させるには、翻訳前後のリサーチが欠かせません。誤訳の多くは調査不足から生じるため、正確な調査力はプロ翻訳者にとって“生命線”とも言えるスキルです。


ただ正確に訳すだけでなく、読む人、見る人にとって“心地よい訳”を届けるためには、一つひとつの訳語にもこだわりが必要です。素晴らしい訳文が生まれる裏には、水面下で行われる膨大なリサーチと推敲があるのです。たとえば、先日話題となった米国エミー賞最多ノミネート&ゴールデングローブ賞受賞作『SHOGUN~将軍』の舞台は戦国時代。同じ日本語でも、時代が違えば言い回しや雰囲気もずいぶん異なってきます。あの臨場感あふれる台詞や舞台設定が実現できたのは、ひとえに作品に関わった言葉のプロたちの尽力に他ならないと言えるでしょう。


グローバル時代に欠かせない“対人対応力”と自己管理力


クライアントとのやり取り、納期管理、品質保証、チームとの連携―これらは全て「翻訳力」だけでは対応できないスキル領域です。特にリモート案件が主流となった今、柔軟なコミュニケーション力と高い自己管理能力は、翻訳者としての信頼を築くうえで不可欠な要素となっています。



まとめ~翻訳業界の未来に備えよう


ネットワークで結ばれた地球を前に、真剣な眼差しで未来を見据える女性のクローズアップ


2025年の翻訳業界は、AI の進化、多言語化、そして専門性の高度化といった大きな変化の渦中にあります。 しかしその中でも、「人に伝える力」や「文化をつなぐ役割」は、翻訳者にしか果たせない価値として、いまも確かに求められています。


今後は、AI と協働しながら、翻訳者自身がスキルを磨き、強みを言語化していくことがカギとなるでしょう。変化を恐れず、進化を続ける翻訳者こそが、これからのグローバル社会において不可欠な存在となるはずです。


参考サイト:





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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。



編集者プロフィール


Satoko


SIJIHIVE 代表、異文化コミュニケーションの専門家。「異文化を、いい文化へ」をモットーに社会通念とは何かを考える日々。多様な価値観が良い形で共存していけるような情報発信を一貫して行っている。

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