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実は深い翻訳業界㊻~翻訳における“音感”の重要性とは?

更新日:6月4日


複数のフェーダーとツマミが並ぶ、音響用のミキシングコンソールのクローズアップ。

翻訳とは、表面的な言葉の置き換えにとどまるものではありません。特にナレーション原稿やスクリプトの翻訳においては、「読んで意味が通じるか」だけでなく、「声に出して自然に伝わるか」が非常に重要な要素となります。すなわち、翻訳にも“音感”が必要とされるのです。


ナレーターが声に出した瞬間に詰まる言い回しや、息継ぎが困難な長い文章、不自然な語尾の連続...こうした要素は聞き手の理解を妨げるばかりか、ナレーションそのものの品質を損なってしまう可能性があります。


本記事では、「読んで心地よいか」「聞いて伝わるか」という“音の翻訳”の視点から、ナレーション・スクリプト翻訳における音感の重要性と、翻訳者としての実践的な工夫について解説します。



翻訳における“音感”とは?


光に包まれたグランドピアノの鍵盤部分のクローズアップ。

なぜナレーション・スクリプト翻訳に音感が必要なのか


ナレーションやスクリプトは、最終的に「耳で聞かれる」コンテンツです。そのため、原稿の意味が正確であっても、聞いたときに違和感があれば、情報は正しく伝わりません。


“音感” とは、言葉の「響き」「テンポ」「呼吸」に対する感受性です。翻訳文を声に出したとき、滑らかに読めるか、語調が自然か、抑揚がつけやすいかといった要素が含まれます。


とりわけ映像や動画コンテンツの翻訳では、ナレーターの演技や視聴者の集中力に直結するため、音感の良し悪しが作品の完成度に大きな影響を及ぼします。


「読んで心地よい」とはどういうこと?


「読んで心地よい」訳文とは、声に出さずとも頭の中で自然に音が浮かび、テンポよく意味が伝わる文章です。どの言語もそうですが、わたしたちも日本語の音のリズムや語尾の響きに一定の心地よさを感じるはずです。


たとえば、語尾がすべて「〜です」「〜ます」で終わると単調になりがちですし、逆に語尾がバラつきすぎると落ち着きがなくなります。また、漢語の羅列やカタカナ語の多用も、読みづらさや聞き取りにくさにつながります。


例を挙げてみましょう。以下の文章を比較してみてください。

①朝起きたら、まず窓を開けて深呼吸。それから、軽くストレッチをして白湯を一杯。たった5分で、体も心も目覚めます。

②朝に起きた後、私は窓を開けて、外の空気を吸うようにしています。それが終わったら、少し体を動かすこともあります。そうしてから白湯を飲みます。全部行うのに5分もかかりません。

いかがでしょうか?①のほうが文が短くリズミカルで、動作の順番も自然で読みやすいのではないでしょうか?②は語尾「ます」が続けて使われている上に、文が冗長に感じられます。


もう一つ例を挙げてみましょう。掃除機の紹介に関する翻訳文です。

①軽い、静か、パワフル。毎日の掃除がもっとラクになる、そんな掃除機です。

②この掃除機は、非常に軽量で、しかも運転音が静かでありながら、吸引力においても十分な性能を備えている製品となっています。

①はキャッチコピーにもなりそうな、印象に残りやすい訳文です。それに対して②は流れが悪く、声に出して読みづらいですね。



声に出して伝わる訳文を作るには?


冬服を着た2人の若い女性が街の明るい通りで向かい合って話している。

読みやすさの基本:一文一義と簡潔な構造


ナレーションに適した文章構造は、「一文一義」です。つまり、一文に含まれる情報は一つに絞ります。一文に複数の情報が詰め込まれていると、聞き手は意味の核をつかみにくくなります。


また、句読点の位置や文節の長さも重要です。適度な区切りを設けることで、ナレーターが自然に息継ぎでき、聴き手も内容を整理しやすくなります。


リズムと間を意識した文章作り


音声において「リズム」と「間」は、理解と印象に直結します。


たとえば「そして」「また」「実は」といった接続詞は、聞き手の意識を切り替える“間”を演出します。意図的に短文を挟んだり、語順を工夫したりすることで、テンポの良い聞き取りやすい文章になります。


文体の統一と語尾の揃え方


文体の一貫性は、音の滑らかさに大きく関係します。「〜です・ます調」と「〜だ・である調」が混在していると、音のトーンが不自然になりやすく、演者にとっても読みづらい台本となります。


また、語尾の揃え方にも工夫が必要です。たとえば、「〜です」「〜します」の繰り返しを避け、「〜があります」「〜となります」など、語彙のバリエーションをつけ、意味は同じでも語感の異なる表現を使うことで、音のリズムに変化をつけることができます。


読み上げチェックで音感を磨く


訳文が完成したら、実際に「声に出して読む」ことを習慣にしましょう。読みながら「ここは息が苦しい」「同じ語尾が続いてくどい」「漢字が多くて読みづらい」などの感覚をつかみ、修正を加えることで音感が養われていきます。 できれば、第三者に読んでもらい、聞き手側の印象を確認することも有効です。



ナレーション・スクリプト翻訳における具体的な工夫


ナレーションスクリプトを見ながら、ノートパソコンと手帳が並んだ木の机で作業する様子。

技術文や専門用語を扱うときの注意点


IT、医療、金融など、専門性の高いナレーション原稿では、正確性と音感のバランスが難しくなります。 「英語的な語順のまま翻訳された長文」や「カタカナ語の羅列」は、聞き手の理解を妨げる典型例です。


たとえば、“data visualization platform”を「データ・ビジュアライゼーション・プラットフォーム」と訳すより、「データを視覚化するためのプラットフォーム」のように平易な語順に変えることで、音としても意味としても伝わりやすくなります。


台本翻訳で大切なキャラクターの“声の質感”


ドラマやアニメの吹き替え脚本では、登場人物ごとの「声の質感」を意識する必要があります。キャラクターの年齢、性格、テンションに合った文体や語尾(例:「〜だぜ!」「〜ですわ」)を適切に使い分けることで、ナレーターや声優が自然に演技しやすくなります。


視認性と段落設計でナレーターの負担を軽減する方法


長文が一塊で表示されている台本は、ナレーターにとって読みづらく、噛みやすくなります。翻訳時には、1センテンスごとに改行を入れる、視認性の高いレイアウトにするなど、段落設計にも配慮することで、パフォーマンスの質を高めるサポートができます。



読み手・聞き手に届く翻訳とは?


デスクにノートパソコンとマイク、開いたノートが置かれ、スタンドライトが暖かく照らしている。

認知負荷を減らす文章構成


たとえ内容が専門的であっても、「一度聞いただけで理解できる文章」を目指すことが大切です。仮に専門用語が使用されていたとしても、情報の前後関係を明確にする接続詞、シンプルな構文、適切な語彙選びによって、聞き手の認知負荷を最小限に抑えることが可能です。


親しみやすさとプロらしさのバランス


ナレーション原稿は、堅すぎても軽すぎてもいけません。たとえば企業紹介の動画であれば、「です・ます調」で誠実に、かつ余計な修飾を避けて端的に伝えることで、信頼感と親しみを両立できます。音感に優れた翻訳は、内容にふさわしい雰囲気を自然に聞き手へ届ける助けとなります。



まとめ|“耳”で仕上げる翻訳で伝わり方が変わる


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今日からできる!音感を意識した翻訳の習慣


  • 翻訳後に必ず「声に出して読む」こと

  • ナレーター目線で、文の長さや語尾を見直すこと

  • 一文一義の原則を意識すること

こうした習慣を積み重ねることで、文章に音の滑らかさが加わり、“伝わる訳文”へと近づいていきます。


読み手ではなく「聞き手」を意識した表現へ


翻訳の読者が「画面の向こうにいる聞き手」である場合、その人にどう伝わるかを常に意識する必要があります。 画面の前で話すナレーター、耳で聞く視聴者—その両者にとって心地よく、明瞭に響く文章。それこそが、ナレーション翻訳が目指すべき訳文だといえるでしょう。


今回ご紹介した「翻訳を声に出して読んでみる」というチェック方法は、ナレーションやスクリプトだけでなくどのような文章にも当てはまります。分野を問わず、翻訳やライティングのお仕事に日々取り組まれている方はぜひ試してみてはいかがですか?皆さんのユニークなチェック法やご意見・ご感想もお待ちしています。




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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。

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