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執筆者の写真SIJIHIVE Team

実は深い翻訳業界㉕~翻訳家って儲かるの?


翻訳家になりたいと思いながらも、「翻訳の仕事で果して食べていけるのだろうか?」と悩んでいる方は少なくないでしょう。あるいは、現在、翻訳を副業にしていても、今後専業でやっていくには自信が持てない、という方もおられるかもしれません。


日本でもベストセラーになった『かもめのジョナサン』で知られる作家、リチャード・バックは「プロの作家とは、書くことをやめなかったアマチュアのことである」と述べました。これを翻訳家に当てはめると「訳すことをやめなかったアマチュアはプロ」といえるかもいえるかもしれませんが、いくらプライドを持って翻訳を続けていても、稼げるかどうかは別問題です。そして、「私は翻訳家」と人前で言えるようになるためには、ある程度の稼ぎが欲しいのが本音ではないでしょうか?


今回の「翻訳とお金」の問題に切り込んで、「翻訳家って稼げるの?」というテーマを深掘りしていきます。


稼げる翻訳の種類とは?



一口に「翻訳家」といっても、さまざまな形があります。以前の記事で、翻訳の種類は「出版翻訳」「映像翻訳」「産業翻訳」の3つに分けられることについて解説しました。


1. 出版翻訳


出版翻訳には、文芸書や雑誌、絵本などの翻訳が含まれますが、語学力だけでなく、文学についての深い造詣や高い日本力が求められます。


出版翻訳の報酬には出版社が原稿を買い取る方式と、印税によって支払われる場合があります。買い取り方式の場合、出版された書籍の売れ行きによって翻訳家の報酬が左右されることはありません。しかし、印税方式の場合は印刷部数に3〜8%の印税が支払われるため、ベストセラー作品では数千万円もの儲けを手にすることもあります。


もっとも現実は厳しく、出版翻訳の需要は少ないだけでなく、それに携わる翻訳者はベテランが多く、経験の少ない翻訳者に仕事が回ってくることは稀です。そう考えると、出版翻訳で多額の印税を目当てに翻訳家を目指すのはやや現実味が欠けるかもしれません。


2. 映像翻訳


映像翻訳の翻訳の料金体系は「時間」ベースで計算されることが大半です。例えば、英語から日本語に翻訳する場合は、1分当たり1,000円~2,500円程度がフリーランス翻訳者に支払われる相場だと言われています(翻訳者さんの経験やジャンルに応じてレートは大きく異なります)。以前は SST など専用の字幕翻訳ツールが必要で、字幕を専業とするには多少なりとも投資が必要でしたが、最近は CaptionHub Wibbitz といったブラウザで使用できる動画制作システムが登場し、エージェントが翻訳者さんにアカウントを付与して仕事を依頼するというケースが多くなっています。


映像翻訳を専門としている翻訳会社では、受注する上で10分を最低単位としている場合が多くみられます。


3. 産業翻訳


「実務翻訳」と言われる産業翻訳は出版翻訳や映像翻訳よりも需要が大きく、この分野の翻訳に携わっているフリーランスの方も多いのではないかと思います。では、産業翻訳の中でどのジャンルが「儲かる」のでしょうか?


一般社団法人「日本翻訳連盟」が発表している英日・日英翻訳の料金目安によると、英語から日本語への翻訳に関しては、「医学・医療・薬学」が30円前後と文字単価がもっとも高いことが分かります。その理由は医療翻訳の難易度の高さです。また、医療翻訳は医療だけでなく、周辺領域への理解も必要です。例えば、医療機器に関する翻訳であれば IT に関する知識、医薬に関する翻訳であれば、薬学や化学に関する幅広い知識も求められるからです。


上記の金額はクライアント企業が翻訳会社に依頼する場合のものですので、翻訳者さんに実際に支払われる金額はそれよりも低くなります。その分野での翻訳実績と権威がある場合や、翻訳・ローカライズにかける予算をしっかり取っている企業がクライアントであれば(たとえエージェント経由でも)フリーランスとして十数円~のレートで交渉ができる場合もありますが、最近の翻訳レートが徐々に低下傾向にあるのは否めない事実です。


稼げる翻訳の「言語」とは?


翻訳家の報酬は専門言語によっても異なります。日本語ネイティブの翻訳家の場合、外国語を日本語に翻訳することが多いと思われますが、気を付けたいのは、専門言語がマイナーな言語であればあるほど高収入が見込めるとは限らないということです。


海外サイトですが、ProZ.com を使えば、ソース言語、ターゲット言語を任意で選択し、フリーランスの翻訳料金の相場を調べることができます。例えば、ターゲット言語が日本語の場合、文字数当たりの単価が最も高いのは「ヘブライ語→日本語」で、1ワードあたり0.15ドル(約21円)です。


ちなみに、この記事をお読みいただいている皆さんの中で需要が最も多いと思われる「英語→日本語」は1ワードあたり0.12ドル(約17円)であることが分かります。英語を専門とする翻訳者は山ほどいるはずですが、それによって値崩れを起こしていることはないことから、英語力を磨いて、得意なジャンルを持ってさえいれば、今後も急に仕事がなくなることはないはず、と安心できるのではないでしょうか。


翻訳家の時給はどのくらい?



仮に英語から日本語への翻訳の単価が1文字あたり15円としましょう。以前の記事で「1時間で翻訳できる量」について検証しましたが、弊社は1時間あたりの翻訳可能ワードは500字で換算しています。そうすると、時給は15円×500字で7,500円になります。また、1日の翻訳可能ワードは2,000字と見積もっているため、日給は15円×2,000字で30,000円です。


最近では個人で文字単価15円はそれなりの価格帯になり、取引先は限られるかもしれませんが、クライアントと良好な関係を築いている経験豊かな翻訳家であれば、フリーランスで月収100万円も決して夢じゃないといえるでしょう。


まとめ:翻訳家として稼げるかどうかは自分次第


以上、翻訳の種類や言語から翻訳家が稼げるかを検証してきました。ありきたりな結論ですが、結局翻訳家として稼げるかどうかは自分次第です。翻訳家として駆け出しの頃は高単価をクライアントに主張することはできませんし、経験がないゆえ仕事を継続的に受注するのも簡単ではありません。


それでも冒頭でも述べたリチャード・バックのように「訳すこと」をやめずに、得意なジャンルを作り、周辺領域に関する知識を増やし、翻訳の技術を磨いていけば、単価は徐々に上がっていくことでしょう。というよりも、ある時点で「この単価以下の仕事は受けない」姿勢をつくるのもひとつの手です。翻訳家は「いつまでも勉強」の精神が通じる世界ではありますが、自分のキャリアが多少なりとも築けてきたと感じたらその時点で自分の最低受注単価を決めておくと良いでしょう。


あと忘れてはならないのは、どれだけ IT が進んで、クライアントとのやりとりがオンラインでのテキスト中心であっても、結局は人間同士の付き合いである点です。良好な関係を築くためにスムーズなコミュニケーションを心がけ、人間力を磨くことも忘れないようにしたいものです。


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著者プロフィール


YOSHINARI KAWAI


2008 年に中国に渡る。四川省成都にて中国語を学び、約 10 年に渡り、湖南省、江蘇省でディープな中国文化に触れる。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、英語と地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。コロナ禍で帰国を余儀なくされ、現在は福岡県在住。



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